第50話 友人
途中、港町の商店街にも寄って買い物を終えフィッシャー港に到着した。
港では今朝到着した商船が荷物を降ろし終え、再び新しい荷入れを始めた所だった。
人の乗船は夜になる。それまでは部屋や船内の清掃が行われているのだろう。
甲板には船乗りに加えて掃除用具を手にした人の姿が見えている。
「お待たせ! ドロシー」
『ニャア』
降ろされた積み荷の近く、使われなくなって放置されている樽の上にドロシーはいた。
アルフが近づくと肩の上に飛び乗って来たので頬をすり寄せながら、頭や喉を撫でるとゴロゴロと音が鳴り出した。
『ニャア』
「見張っていてくれてありがとう。お昼ご飯はまだだろう? どうぞ召し上がれ」
先ほど商店街の鮮魚店で購入した魚の切り身を口元に持っていくと、パクリと食べていく。
ドロシーが一匹分を平らげたのを見て、アルフは別の袋を取り出す。
「これも食べてみて。魚のすり身を棒に巻き付けて焼いてあるんだ。中に穴が空いていて面白いよね」
『ニャア』
「気に入ってくれたみたいだね。僕たちも焼き立てを食べてみたけど、美味しかったからお土産にたくさん買ってきたよ」
『ニャア』
そうしてドロシーの食事が終わったのを確認したアルフは目的の船を探し始める。
すると、倉庫近くにある港の一角に見覚えのある船が停泊しているので馬から降りてそちらへと向かう。
船の近くに見えた人影は思った通り、レオンとセレーナだった。近づくと向こうも気がついたようで手を振っている。
「おーい! 英雄様ー! こっちだ、英雄様ー!」
何事かと港にいる人々が注目を始めたので、アルフは急いで船の方へ走って行く。
「その呼び名を使うなら、友人の話は無かったことにしましょう」
「いやーすまない。つい呼んでしまったよ魔道士様。見てくれこのセレーナの美しい羽を!」
「ありがとう通りすがりの英雄……じゃなくて魔道士様。目が覚めたら元に戻っていたわ!」
「あの時は急いでいたので、ゆっくり説明できずに眠らせてしまいました。元通りになって良かった」
セイレーンを初めて見たスーリオンはその姿を見てアルフにしがみついていた。
それに気がついたレオンが語りかける。
「坊やがエルフの子か? 俺はレオン。この綺麗な女性は俺の妻でセレーナだ。よろしくな!」
「……スーリオン」
スーリオンはようやく名前だけを告げる。それを見てアルフが紹介をフォローする。
「この子は森の民で今日初めて海を見ました。ヴェルヌ国に来るのも初めてのことです」
「なるほどな。それは驚くか」
「この子の子守もしていたのね。エルフの子なのに、とても懐いているわね」
「通りすがりのベビーシッターなので」
アルフはスーリオンの頭に手を置き、心配ないと落ち着かせるように撫でてから気になった事を尋ねる。
「ここだけ倉庫に直接船が入れるようになっているのですね」
「俺の倉庫だからな。船で仕入れてきた品を直接運び込めるようになっているんだ」
「この国で商売を?」
「最初は船でいろんな国を巡って商売をしていたんだが、この国が一番セレーナに良いと思ってな」
「王都に様々な品を扱っている本店があって、他にいくつも店を持っているのよ」
セレーナの説明にアルフは気がつく。先ほど行った王都の店が羽と笛の看板だったことに。
「成功されているのですね。僕も先ほど本店のお店で買い物をして来た所です」
「おっ! 英雄様……じゃなかった魔道士様が来店してくれたとは嬉しいね。誰が対応を?」
「片眼鏡の紳士でしたね」
「彼が対応したか! さすがじゃないか。柔和だがああ見えて鑑定眼の持ち主でね。下手な客は相手をしないんだ。良い品を勧めてくれたかい?」
「ええ。大変満足です。レオンさんの店だったとは知らなかったのですが、良いお店ですね。水薬だけのつもりが、色々買ってしまいましたよ」
「それは面目が立ったな。どうぞごひいきに」
そう言ってレオンは笑っている。そしてその笑顔をニヤリとしたものに変えた。
「所で魔道士様。神の船とは面白い噂を流してくれたな。レジナード商会に天罰とか! 笑ったよ」
「お耳が早いですね。カレンちゃんを守るためです」
「やっぱりそう言うことか。魔道士が関わっているなら、最強の子守りだな! あのくそ親父、俺の妻や子にまで手を出しやがって絶対許さん!」
「仲が良くないのですか?」
「商売のやり方が気に入らなくて家を飛び出したんだ。こっちで成功して、妻子も出来たから数年ぶりに報告に行ったら、いきなり殴られて監禁だよ。助けてくれて本当にありがとう!」
レオンから感謝されたので頷いておく。
あの時、夜泣きに対応しておいて良かった。
「それにしても情報が早いですね」
「そりゃあいろんな所に情報網があるからな。ここだけの話、俺は情報屋もやっているんだ」
「本当ですか! 是非とも利用したいですね」
「だが利用するには条件がある」
「その条件とは?」
「店のお得意様で俺の友人であることだ。魔道士様ならいつでも歓迎する」
そう言って手を出されたので、アルフはその手を握る。
その手をぐいっと絡ませて二人の腕が近づく。
アルフとレオンの口元に笑顔が浮かんだ。
「よし! これで俺たちは友人だな!」
「これからは魔道士と呼んで下さいね」
「分かったよ。眠りの魔道士。俺もレオンと呼び捨てにしてくれ」
そのやり取りを聞いていたスーリオンがおおきな口を開けてアルフを指さした。
「魔道士様が……眠りの魔道士様だったの!?」
『私はご飯でごまかされたりなんか……ニャア!』
「まだまだあるから、たくさん食べてね」




