第35話 猛毒
知りたかった情報を手に入れたアルフは、ドロシーの意識と共に悪夢の外へと飛び出した。
ドロシーは対象が眠っていたり、気絶して意識が無い時には夢の中に入り込む事が出来る。
今回はその力を使って一緒に入り込み、ブルドの夢を悪夢に変更して情報を抜き出してきた。
うなされたまま当分起きることは無い。
念のため防音結界を張った執務室でアルフはドロシーと話し始めた。
「ありがとうドロシー。この国で頻発していた拉致や誘拐は悪魔絡みだったね」
『ご主人様。少々油断し過ぎでは?あのような小物に魔力を封じられるなど』
「僕も平常心……平常心……ってずっと心の中で言い続けてはいたのだけど無理でした! 太ももがエロすぎました!」
『そもそも鍵など手に入れなくても転移魔法を使えば良かったのでは』
「うっ。だって、ほら……セシル様達が頑張って見つけた鍵だし? セシル様騙されやすいから罠に突っ込みそうだなって思っていたら、やっぱり罠だったし。それにデートは女性の行きたい場所を優先するべきだって本に……」
『だからデートではありません! きちんと反省して下さい!』
ドロシーの怒りに、アルフは床で正座をして姿勢を正す。
ドロシーも座り姿勢で右前足を上げている。
「はい。ごめんなさい」
『今回は武術で倒せたから良かったものの相手が悪魔なら、魔力を封じられたら死んでいましたよ!?』
「はい。心配させてごめんなさい」
『ご主人様は死んではダメですからね!』
「善処します。ドロシーも絶対守ります。指一本触れさせません」
『ニャ。分かって下さればいいのです』
アルフの宣言に照れて許してしまう辺り、ドロシーもご主人様には甘い使い魔であった。
「それでドロシーさん。セシル様はどちらに?未だに思念が繋がらないのですが」
『……先ほどまで石壁の部屋にいましたが……生け贄にされそうになっています』
「ちょ、そう言うことは早く言って!? どこっ!?」
『同様に転移方陣で飛んだ方が早いでしょう』
聞いたと同時にドロシーを肩に乗せ、アルフは執務室のランプに触れる。
スッと机の下に魔方陣が発生しアルフとドロシーの視界が瞬時に切り替わった。
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「強制転移でここに閉じ込められるのか。しかも魔獣付きで」
ふわりと着地しながら真っ暗な周囲を見渡す。
天井は高く四方は窓も無い石壁に囲まれている。
床を見回すと数頭の魔獣が切り倒されていた。
さらに近くにはフードを着た白骨死体が二体、新しい死体も一体転がっている。
「切り口から放電しているから魔獣はセシル様が倒したみたいだね。……死体は諜報部の人かな」
『北側の壁を抜けた先にいます』
「了解」
アルフは指先を手刀にして魔力で石壁を切り崩す。
すると暗くて長い通路があり、さらに奥には広い空間があるようだった。
その開けた場所に向かって急いで走って行く。
「王都の中にこんなものを作るとか……掃除が大変過ぎる!」
『召喚が始まりそうです』
近づいて行くと目に飛び込んできたのは、悪魔召喚の魔方陣。
円陣の周囲に六つの柱と中央にも人影がある。
生け贄にされているのは六人の子ども。そして中央にいたのはセシル嬢だった。
子どもはそれぞれが黒い柱に括り付けられグッタリとしている。
付近では杖を持った老人が呪文を唱えており、魔方陣からは次々と瘴気が吹き出していた。
「っ、やめろっ!」
―――カッ!
―――ズガン!ガラガラガラガラッ……!
アルフはありったけの魔力を込めて聖魔法の光弾を魔方陣へとぶつけた。
白く輝く光が瘴気を消し飛ばし、轟音と共に黒い柱を粉々に砕いていく。
生け贄にされていた子ども達が解放され、その場に座り込む。
セシルを拘束していた瘴気も消えている。
「邪魔をしたのはどこの愚か者だ!? ようやく生け贄と器が揃ったと言うのに!」
「愚か者はお前だっ! 悪魔を召喚してどうするつもりだ!?」
「んんっ? 賢者とまで呼ばれた私を愚か者呼ばわりだと。新しい信者では無さそうだな。悪魔を崇拝しない者に用はない」
「愚かな賢者とか質が悪いな!? こっちは用が大有りだ。皆を返してもらう!」
そう言ってアルフが手刀を作り風の刃を飛ばすと、老人が地面を二度杖で突いた。
すると刃は弾き飛ばされ、さらにアルフは突然胸の苦しみに襲われ片膝を付いてしまう。
「ぐっ」
ドロシーもアルフの肩に乗っていることが出来ずに地面に転がり落ちてしまった。
同時に座り込んでいた子どもたちやセシルもその場で胸や喉を押さえながら苦しみ始める。
「……っ……」
『ニャ』
「おや? まだ動けるのか。この猛毒に耐えるとはしぶといな」
老人の言葉を聞いてアルフは震えながらも腕を振り、周囲に眠りの魔法を発動させる。
子ども達とセシルそしてドロシーを眠らせて解毒するために。
しかしアルフまで眠ってしまっては対処する者がいなくなるため、自身には眠りの回復魔法を使えず身体が猛毒に蝕まれていく。
「残りは……死んだか」
生け贄に用意した者達がうつ伏せに倒れてピクリとも動かなくなったのを見て、老人は死んだと思い込む。
「……くっ……」
そしてただ一人苦しみ続けている黒いフードの人物に興味を持った。




