第34話 狙われた理由
アルフが焦っていたのはペンダントの魔石を握りしめてもセシルに思念が届かなかったからだ。
魔力の発動だけではなく、魔石の力まで封じられているらしい。
「ドロシー。向こうの様子は分かる?」
『屋敷内にいます。石壁に閉じ込められているようです』
アルフとドロシーの会話を聞いたブルドが驚き、笑みをこぼす。
「人語を解する獣とは珍しいではないか。そいつも生け贄にしてやろう」
『ご主人様。あの黒い宝玉が魔力を封じています』
「中々魔力もありそうだな。さあその黒い獣を寄越せ!」
ドロシーはフーッツ!と毛を逆立てる。
ブルドが黒い宝玉を手にしながら近づいて来たため、アルフはドロシーを守るように前に立った。
「汚い手で触るなよ? お前みたいな屑に大切なドロシーを渡すわけ無いだろ!」
「魔法が使えないくせに威勢がいいな? そんなに望むなら始末してやろう。おい、出てこい!」
ブルドが指示を出すと執務室の別室から、昨日セシルを追っていたような姿の男達が現れた。
手にはそれぞれ武器を所持している。アルフは呆れながら呟く。
「七人……昨日掃除したのに、まだこんなに残っていたのか」
「あれはお前の仕業か!? 十三人もの仲間をよくも!」
「眠らせたのは僕だけど、始末したのはそっちだろ?」
「同じ事だ!」
「全然同じじゃないですけど?」
出てきた男達と言い合いながらも、ジリジリとアルフは壁を背にして取り囲まれていく。
「一部屋にこんなに集まったら暑苦しくない? 何か臭いし」
「心配ない。人数が多ければすぐに片付く」
「集まらないと仕事出来ないって結構無能な集団ですね」
「無能はお前だろ?魔法の使えない魔法使い!」
「まあ僕は通りすがりの掃除当番だけどね」
「その余裕もここまでだ!さっさと死ね!」
取り囲んだ男達が一斉に飛びかかって来る。
アルフは左肘を前に出し、右手を握って腰を落とす姿勢を取る。
そのまま、剣を突き刺してきた男を右に躱し横から顔面にめり込むようなパンチを食らわせ床に沈める。殴った勢いでくるりと回転し、隣の男の上腕の筋肉が薄い箇所を狙い骨に響くようなフックパンチを打つ。
男は痺れで剣を手落としたのでアルフはそれを空中で拾い、剣の持ち手で背を叩きつけ気絶させる。
そして背を押した勢いを利用して、後ろにいた男の顎を蹴り飛ばし、さらに着地と同時に横にいた男の腹へ回し蹴りを入れた。
瞬く間に飛びかかった四人の男が床に倒れ込み気絶する。
後衛だった三人は動きを止め、ブルドが驚愕の声を上げた。
「……馬鹿な!? マクシム様からの兵が……国の近衛兵に匹敵する強さのはずでは!?」
「集めていただいたおかげで掃除が楽になりましたよ」
「お、お前は魔法使いではないのか!?」
「通りすがりの掃除当番だと言ったはずです」
そう言ってアルフは奪い取った剣をブルドへと向ける。
「な、何をしている! たかだか一人だろう!? さっさと始末しろ!」
「ブルド様。この野郎の構えは帝国のものだ。本当に王国の密偵なのか!?」
「帝国……? マクシム様からは王国の密偵だと聞いて……」
「お取り込み中のようですが、僕も忙しいのでここの掃除は終わらせますよ」
ブルドが次に黒フードの姿を見たときには目の前に拳が迫っていた。
直前に内臓をえぐられるような痛みを感じそのまま顔面を殴り飛ばされ本棚まで吹き飛ぶ。
手に持っていた黒い宝玉は剣で真っ二つにされていた。
「さてとたっぷりと悪夢を見させてやろうか。ドロシー」
『ニャアァァ』
■■■
「ここは」
ブルドは暗い空間で目を覚ました。
周囲には何も無く、たた暗いだけの空間が広がっている。
身体を動かそうとするが、何かに縛られているようで指先すら動かない。
いつからここにいたのか、酷い喉の渇きと空腹を感じている。
呆然としていると空間に声が響いた。
「ようこそ悪夢の中へ」
「お前はさっきの……!」
「ええ。掃除当番です」
「さっさとここから出せ! わしを誰だと思っている!? ベルジェ王国の……」
「王国のゴミですね」
黒いフードの男が告げると、ブルドの身につけていた服や身体が朽ちていきゴミのような姿になる。
「ひっ……ひいいっ!? な、何だ……! 何が起こった……!?」
「この空間では僕の思うままです。そしてここで死ねばあなたが永遠に目覚めることはありません」
「う、嘘だ! そんな魔法聞いたことも……」
「では試してみますか? 脂が多いから焼却処分でいいかな」
パチンと指を打ち鳴らし右手に巨大な炎の球を発生させる。
「や、やめろ! 待ってくれ!」
「ああ先に切り刻まれたいですか?」
「ぎゃああ!」
次々と鋭利な刃物がブルドに迫っていき、朽ちた身体がさらに切り刻まれる。
「い、痛い! 頼む……止めてくれ!」
「あなたがこれまでにしてきた事では? しかも何の罪もない子ども達に」
「何が望みだ!? 金か!?」
「あなたの命はいくらで売っているのですか?」
ひんやりと冷めた声がフードの中から響く。ブルドは大量の汗を流して懇願した。
「……悪かった! 子どもを売った金は全てやる! だから……」
「知りませんでしたか? 失われた命はお金があっても買えないと」
「悪魔の生け贄にしたのはマクシム様だ! エルフを隣国に売れと言ったのも!」
「何故、国の子どもやエルフを狙う」
「そ、それは内包する魔力が高いからだ! 生け贄には魔力が高く若い方が悪魔が喜ぶからと……!」
ベルジェ王国は他国に比べると比較的魔法使いの多い国だ。
今のエルフはあまり魔法を使わないという話だったが、魔獣の影響で内包する魔力は相当に高いのだろう。
ようやくこの国の子どもが狙われていた理由がはっきりした。
隣国に運んでいると言うことは、他国でも悪魔への生け贄にしようと企んでいるのかもしれない。
早めに阻止しないとまた別の悪魔が召喚されてしまう。
「ではあなたは誰も傷つけていないし殺していないと?」
「……王国の密偵を殺さなければ私の命が危うかったのだ」
「まさか正当防衛だったとでも言うつもりですか」
「頼む! 見逃してくれ!」
『ニャアァア』
黒猫の鳴き声が暗い空間に響き渡る。すると次々に青白い魂が生まれ、姿を形作る。
「あの世からのお客様のようですね。見覚えがあるのでは?」
「ひっ……ひいいいい!」
そこにはブルドに関わって死んだ者達が大量に彷徨っていた。
それぞれが怨みがましい目でブルドを見つめている。
「皆さんあなたに用事があるようなので、後はお任せします」
「ま……まっ……」
「ゆっくりと悪夢を味わって下さい。それでは」
「うわああああっ!」




