第33話 夜行性
ブルド子爵の庭を玄関に向かって歩いて行く。周囲には眠り続ける人や、番犬が倒れている。
屋敷の玄関扉に手をかけた所でセシルが言葉を掛けた。
「魔道士様。屋敷に入る前にお渡ししたい物があります」
そう言って懐から紅い宝石の着いたペンダントを取り出し、アルフに手渡す。
「これは?」
「ベルジェ王国の諜報部が用いている通信の魔道具です。魔石を握って通信相手を思い浮かべると、離れていても思念で会話することが出来ます」
「試してみても」
セシルは首から下げた同様のペンダントを握りながら頷いている。
「(どうぞ)」
「(頭に声が響いてきますね。これは便利です)」
「(元々は一つの魔石を割って作られているので、互いに思念を送り合えるのです)」
「(諜報部の魔道具を僕に渡しても良いのですか。貴重な物では?)」
「(魔道士様のこれまでの働きは諜報部以上の物だと思います。宰相も認めるでしょう)」
「(ではありがたく使わせていただきます)」
「(ブルドの屋敷には至る所に侵入者を排除する仕掛けがあります。お気を付け下さい)」
アルフはペンダントを握りしめたままだと、片手が使えないため一度手放して通常の会話に戻した。
「注意して進みましょう。どこを目指せばいいですか」
「地下牢の扉を開けるには、ブルド子爵の執務室内にある鍵が必要です。東棟3階へ向かいましょう」
二階へと続く階段を昇り、長い廊下を進んで行く。廊下の両側には等間隔で騎士の甲冑が飾られている。
「この甲冑動いたりします?」
「昨日通った際には特に動いたりは……」
『ニャア』
「危ない!」
―――ビュッ!
廊下の中程まで進んだ所で突然甲冑が動き出し、持っていた剣で攻撃してきた。
セシルは咄嗟のことで対応出来ずにいたため、アルフが抱き寄せ剣を避ける。
剣が空を切る音が聞こえる。
「っ! これは!?」
「夜間警備のゴーレムみたいですね」
―――ガチャ、ガチャッ、ガチャッ……
後ろを振り向くと、それまで両側に立っていた甲冑が動き出し追うようにゆっくりと動き出していた。前方にいる甲冑も迫って来る。
「あらら、囲まれたか」
「申し訳ありません」
「気にしないで下さい。夜間しか動かない仕組みのようですし」
―――ガキッ!
甲冑の攻撃をセシルは短剣で受け止める。
そのまま受け流し、甲冑の背を切りつけるが金属音が響くだけでダメージが通らない。
甲冑は何事も無く再び剣を振るって来る。
「魔道士様! 眠らせることは出来ますか!?」
「ゴーレムと眠りの魔法は相性が悪いのです。基本的に無生物は眠らないので」
「では」
「夜間しか動かないなら……これはどうかな?」
アルフがパチンと指を鳴らすと輝く光球が浮かび上がり、パアッと暗かった廊下を照らしていく。
その光に照らされた甲冑は動きを止めその場に留まった。
「ゴーレムにかける言葉じゃないけど、お休み。ゆっくり寝ていてね」
「……さすがは眠りの魔道士様」
「あはは。たまたまですよ。夜行性で助かった。じゃ、行きましょうか」
そのまま動かないゴーレムの横を通り、廊下を通り抜けて行く。
階段を昇り三階の廊下にも甲冑が並んでいたため、アルフはあらかじめ光球を作りだし照らしながら歩いて行く。
いくつかある部屋を通り過ぎ、突き当たりの部屋の前に来た。
「ここが執務室です」
「扉に仕掛けは?」
「扉に描かれたドラゴンの両目を押しながらノブを回さないと電撃が」
「怖っ!」
セシルが執務室の扉を開けると室内は真っ暗だった。
再度指を鳴らして室内を光球で照らす。
目に入るのは執務机と本棚。ソファとテーブル。床には真っ赤な絨毯が敷かれている。
「鍵はどこに?」
「執務机にあるランプの中に隠してあるはずです……ありました……あっ!?」
「え!?」
セシルが鍵を手にした瞬間、執務机の下に魔方陣が発生し身体が光に包まれる。
そして言葉を交わす間もなくセシルの身体が消えてしまう。
「ちっ、トラップ式の転移方陣か!」
「わはははは! また馬鹿な鼠が掛かったようだな!」
アルフが慌てていると本棚が動きだし笑い声が響く。
部屋を照らすランプが灯り、でっぷりと太った男が顔を愉快そうに歪めている。
しかし部屋に黒いフードの人物を見つけ、その笑いを止めた。
「……ふん。まだ鼠が残っていたか。いや、貴様も王国の犬か?」
「お前がゴミ屋敷の主人か? 僕は通りすがりの掃除当番だ」
「掃除だと? そんなもの頼んだ覚えは無いな」
「王国のあちらこちらから苦情が出ているのでね。強制執行させてもらう」
「させると思うのか?」
「思うさ!」
アルフが指をパチンと打ち鳴らす。しかし何も起こらず、作り出した光球も消えていた。
「くっくっくっ! 何かしたのか掃除当番とやら。何も変わっておらんが?」
「……魔法の発動を妨害しているのか」
「ほう。だが気付いた所でどうする?魔法が使えない魔法使いなど怖くも無いぞ」
「ちっ」
ブルド子爵が余裕の笑みを浮かべ、アルフは焦りから舌打ちした。




