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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの掃除人編
31/274

第31話 イメチェン

 魔道士だと告げたアルフの自己紹介に、少年は身体を強張らせる。


「ま、魔道士っ……殺しに……きたの……」

「ううっ。ここでも魔道士への風評被害が。大丈夫だから心配しないで」


 言いながらアルフはゆっくりと少年をソファに降ろす。

 身体の生傷が酷い少年へ、ドロシーが癒やしの波動をかけている。


『ニャア』

「なんで……猫?」

「とっても頼りになる猫さんだよ。君の傷を治してくれているんだ」

『ニャア』

「まずはお水をどうぞ」

「あ、あ……あの……」

「食事は出来そう? それとも湯浴みのほうがいいのかな」


 少年はゴクゴクと喉を鳴らしながら、コップの水を飲み干していく。

 まともに食べていないのだろう。クーッっとお腹の鳴る音が聞こえた。

 再びコップに水を注ぎながら、テーブルのお皿に掛けてあったクロスを取る。


「空腹だよね。そう思って用意しておいたんだ」

「え」


 皿の上にはハムと卵がサンドされたパン、カットフルーツ。

 煮込まれたスープが用意されていた。

 その光景に戸惑いながらも、ゴクリと少年の喉が鳴る。


「汚れが気になると思うからこれを使って」


 アルフは温かな湯で布を絞って手渡す。


「食事が終わったら浴槽に湯を張ってあるから、湯浴みをするといいよ」

「えっ」

「服も用意しておくから、それまでは浴室にあるローブを使ってね」


 次々と目の前に展開される事態。

 理解がついていかなくなった少年は、無言になってしまった。


『ニャア』

「んっ? ああ説明を急ぎすぎたか。君の名前はスーリオンであってるかな」

「どうして名前を……」

「サリオンさんに頼まれて、探していたんだよ」

「僕たちの族長を知っているの?」

「昨日知り合ってね。君は住んでいる森で、誰かに誘拐されたのでは」

「……うん」

「遅くなってしまって本当にごめんね。助けに来たよ」


 その言葉に強く何度もうなずきながら、安堵して泣き出してしまった。


「本当はすぐにエルフの森へ送り届けてあげたい所だけど、ここは海の上なんだ」

「海って……湖よりも水がいっぱいあるっていう……あの海!?」

「そっか森の民だものね。海を見たことが無いか。そうだよ、その海の上」

「もう森には帰れないの……?」

「心配しなくても大丈夫! 絶対に帰してあげるから」


 話が出来るまでに回復したことに安心する。


「だけど僕は今、急ぎの仕事中でもう少し後になってしまう。それまでここで休んでいてくれるかな。この部屋にいる限り安全は保証する」

「いいの?」

「もちろん。隣にベッドもあるから眠るといいよ。よい子に夜更かしは禁物だ」

『ニャア』

「おっと。約束に遅れてしまう! それではおやすみ。スーリオン」


 手を振りながらアルフは王都へと転移する。


■■■


 急いで王都に転移したアルフは、軽い目眩を覚えて頭を押さえた。


「いたた……」

『大丈夫ですか? ご主人様』

「魔力を節約していたけど、この距離の転移はだいぶ消耗するみたい」

『節約していましたか? 小規模の消滅結界まで使っていましたよね』


 ドロシーの指摘に目を反らしながら、収納空間から薄い青色の水薬(ポーション)を取り出す。


「うーっ……あんまり飲みたくなかったけど。仕方ないか」


 一気に飲み干すと、魔力が身体に湧き上がってくるのが分かる。


「ううっ……まずい!」


 同時に頭の痛みが消えていく。けれども後味は最悪だ。


「待ち合わせの教会は……確かこの辺りだったはずだけど」

『あの女神像がある場所ですね』

「やばいっ! セシル様の馬車が止まっている。デートに遅刻は厳禁って書いてあったのに!?」

『デートじゃないです』

「と、とにかく急ごう!」


 教会の扉を開けると、室内はランプで照らされていて明るかった。

 清浄な空気で満たされていて、調度品も綺麗に磨かれている。

 改修されたらしく、以前見たときより礼拝堂も広くなっていた。

 そして大きな女神像の前には二人の女性が立っていた。


「夜分失礼を。通りすがりの掃除人です」

「お待ちしておりました。眠りの魔道士様」

「遅れてしまい申し訳無い」

「私も先ほど到着した所ですよ。こちらはこの教会のマドレーネ修道院長です」

「初めまして眠りの魔道士様。マドレーネでございます」


 純白の修道服に身を包んだ老齢の女性と、黒いローブを羽織ったセシルだった。


「お目にかかれて嬉しく思います」

「こんばんは。僕は通りすがりの掃除当番です」

「フフッ。聞いていた通りですねセシル?」

「ええ。こんな調子なのです」


 二人で顔を見合わせ笑い合うのを首を捻りながら見ていると、セシルが口元を手の甲で軽く押さえながら説明して行く。


「ここは私がお世話になっていた修道院で、マドレーネ院長は諜報部の事も知っています。協力していただけますので、捕われている者を保護したらこちらへ連れて参りましょう」

「分かりました。セシル様は白から黒へ、イメチェンですか」

「夜間なので魔道士様とお揃いの黒ローブに着替えました。似合いませんか?」


 どんな服装だって素敵です。と言いたいけれど、そんな言葉は飲み込む。

 代わりに無難な返事を返す。


「夜に白いローブは目立ちますからね。良い選択だと思います」

「はい」

「それではゴミ屋敷に行きましょうか」

「今日はゴミ屋敷へ誘っていただけるのですね」

「僕も気が引けるのですが……やめておきますか?」

「いいえ。今一番気になっている場所です」


 微笑みながらセシルもフードをかぶる。

 揃って外へと出て行こうとした所で、マドレーネ院長から声を掛けられた。


「セシル! 気をつけるのですよ。魔道士様、どうかセシルを頼みます」

「お任せを」


 セシルを気遣う優しげな声を懐かしく思いながら、一礼して外へ出る。

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