第26話 掃除当番
ドロシーが肩に乗ったのを確認してアルフはパチンと指を鳴らす。
いつものように防音結界を張った。
『お疲れ様です。ご主人様』
「ドロシーもお疲れ様。それで、セシル嬢を襲撃していた男達は?」
『闇ギルドの雇われ者でした。路地裏にある酒場の地下を隠れ家にしています』
「了解! ボストミラの街に違法ギルドを勝手に作られちゃ困るよね。潰しに行こう」
『随分とやる気ですね』
「サクサク片付けていかないと、仕事が終わらないんだよ」
『ご主人様の場合は無限ループでは?』
「うっ。言わないで」
馬車を裏通りに止めて、隠れ家になっている酒場へとドロシーに案内してもらう。
途中、人目のつかない場所で収納空間から黒いローブを取り出して羽織りフードをかぶる。
「ここかな」
『ニャア』
肩に乗るドロシーの返事を聞いて酒場の扉を開ける。
店内は薄暗くアルコール臭が鼻をつく。
我慢してアルフが入っていくと柄の悪い男達が睨み付けてきた。
カウンターの中にいる店員らしき厳つい男が話しかけてくる。
「見かけない野郎だな」
「初めまして。通りすがりの魔道士です」
「顔を見せな」
「シャイなのでお断りします」
「さっさと失せろ」
―ガシャンッ!
店員はグラスを投げつけてきたがアルフの防御魔法に阻まれる。
そのまま床に落ちて割れてしまった。
「なっ!?」
「まだ注文していないのですが。まあ不衛生なグラスでは飲みませんけど」
「だったら何しに来やがった!」
「もちろん闇ギルドのアジトを潰しに」
「ってめえっ!」
その言葉に酒を飲んでいた男達が立ち上がる。
さらには店の奥からも武器を持った男達が出てくる。
「関係者確定ですね」
「うるせえ! 知られたからには生きてここから出られると思うなよ!」
「思いますよ。貴方たちこそ生きて牢から出られると思わないで下さいね」
「減らず口を!死ねっ!」
簡単な挑発に男達が一斉に飛びかかってきた。
アルフは横薙ぎに腕を振った。
―――ドサドサドサッ
腕の一振りでその場に立っている者は一人もいなくなる。
パチンと指を鳴らすと蔦が出現する。
倒れて眠っている男達を次々に拘束していく。
そのままアルフは地下へと続く階段を降りていく。
『ニャア』
結界が張られている鉄扉を見つけると、ドロシーが即座に解除した。
アルフは右手で手刀を作りドアを切り壊す。
『ニャア』
「うん。なんかドアノブがベトベト汚れていたから、触りたくなくてね」
言いながら部屋を見回すと、昼間に見かけた格好の男達や魔道士を見つけた。
「誰だ!?」
「通りすがりの掃除当番です」
「はぁ?」
「街が汚れているのでボランティアで清掃活動をしようかと……」
―バシッ!
―バシッ!
言い終わるより早く風の刃が飛んで来た。
同じ速度で、風の刃を飛ばし相殺する。
やろうと思えばさらに強い刃を飛ばす事も出来た。
しかし相手に力量を見切っていると分からせるためにわざと同程度の刃を飛ばした。
「ば、馬鹿な!」
「ゴミ掃除の邪魔をしないで下さい。まあ貴方も対象ですけど」
「この俺をゴミ呼ばわりだと」
「失礼。屑でしたね」
―――ドサドサドサッ
言いながら再び腕を一振りすると、武装した男達が床に倒れた。
それを見た闇ギルドの魔道士はゆっくりと両手を上げて降参の意を示す。
「参った。命は助けてくれ」
「では質問に答えて下さい。第一問。昼間馬車を襲ったのは誰の指示です?」
「……クリストファーとかいう貴族様だよ。本名かは知らん」
「第二問。馬車の暴走に男の子を巻き込もうとしたのは誰です?」
「俺だ。風の魔法で事故を起こし騒ぎを大きくする予定だった。猫のせいで失敗したが」
『ニャア』
「その猫……あんたが一枚噛んでやがったか」
今更ながら気づいたらしく男は歯がみする。
「第三問。襲撃者が眠った振りをしていた理由は」
「もう気付いているだろう。あの貴族を世間に『眠りの魔道士』だと思い込ませるためだよ」
「なるほど。ここまで素直にご協力いただけるとは思いませんでした」
必要な情報を得られたアルフはくるりと背を向ける。
その姿に魔道士の男がにやりと顔を歪めた。
油断した所で風の刃で切り刻もうと手に魔力をためている。
「だったら」
「ええ。命は奪いません。証言は記録させて頂きましたからね」
そう言ってアルフはパチンと指を鳴らす。
すると床に複雑な紋様が浮かび上がり魔道士の男を紅い光柱が包み込む。
「な……しょ、消滅結界だと!? 殺さない約束だろ!?」
光柱に捕われ動けなくなった男が苦し紛れに叫ぶ。
「約束は守りますよ。消滅させるのは貴方の魔力です。永遠に戻りません」
「ふ、ふざける……ぐあああああっ!」
紅い光柱が消えると元魔道士の男はその場に倒れた。
それを確認しパチンと指を鳴らして、周囲に倒れている人間を全て蔦で拘束する。
「ふぅ。一カ所目のお掃除完了」
『そんなに魔力を使って大丈夫ですか? ご主人様』
「魔力を含んだリンゴを食べたおかげかな。少し魔力が増えたみたいなんだ」
『超回復という現象でしょうか』
「あ、それかも。筋肉みたいだね! よし、次だ」
『ニャア』
そう言ってアルフとドロシーは壊滅させた闇ギルドのアジトを後にした。




