第8話 使命
◯ヴァルミタール家 一階 地下倉庫奥 秘密の石室 (1902年 3月)
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
アレクシスの前で会話する、
宝石少年たち。
ダイヤモンド、サファイア、
イエローサファイアが
新しく主人となるアレクシスに、
微笑みかけている
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
言葉を失っているアレクシスを見て、父は言った。
「以前、ヴァルミタール家は人材派遣をしていたと教えたことがあったね?」
「はい。」
曽祖父の代に人材派遣業で財を成したと聞いたことがあった。
(なんでも、とても高い能力を持った人材を、派遣していたとか――)
「実は、それは今でも続いている。彼らを――《夢を見せる機械》を貸し出すという形でね。」
「えっ。」
あらためて、彼らを見る。美しく人ならぬ少年たち。彼らが《貸し出される》《機械》……。
「これはヴァルミタール家の、隠された商売なんだ。《夢》そのものを売るという商売。」
「夢を売るというのは、どういうことなんですか?」
夢を売る、という言葉が、アレクシスにはどうもよくわからなかった。父は少し考えたのち、息子に伝わるよう言葉を紡いだ。
「例えば、だ。祭りのダンスで相手がいない、そんなとき、相手が欲しい――そう思うのは自然なことだろう。」
(なるほど――)
アレクシスはなんとなく、話が掴めた気がしてきた。
「つまりその場合の夢とは、《相手役を演じる》ということ、ですね。」
「そのとおりだ。人間には、《芝居》が必要なときがある。そこで、彼らだ。」
父が宝石少年を指し示す。
「彼らはある程度姿を変えて受肉することができる。力が強い者であれば、見た目の性別すら、変えることもできる。」
「性別も?」
驚くアレクシスに、父は無言でうなずく。
確かに、あの小さな石が、この姿になるのだ。姿を変えるのなんて彼らにとっては簡単なことなのかもしれない。
「それに――彼らを挿入できるのは、何も鋳造心臓だけではない。」
父は宝石の箱に優しく触れながら、続けた。
「彼らはモノや、動物、場合によっては人間にも、挿入することができるのだよ。」
「人間に、彼らを……?つまり、その人物に《成り代わる》ことができるということですか。」
「そのとおりだ。最も、普通に暮らしている人間は、魂の力が強いらしく、挿入することはできない。
眠っていたり、意識を失いかけている場合には挿入できる、といった条件はあるがね。」
これはすごいことだ、とアレクシスは思った。彼らの力は、使い方次第で大きくその色が変わる。
人を助けることもあるし、場合によっては――犯罪をすることだって、出来てしまう。
黙っているアレクシスを見て、父グレゴールは声をかけた
「犯罪をすることも出来てしまう、そう思ったね?」
アレクシスは驚いて父を見た。
「お前は賢い。すぐにそれを理解するだろうと思っていたよ。」
父は穏やかに微笑み、続けた。
「財を成すために、いささかの罪を犯す――よくある話だ。だが、その心配は不要だ。彼らは私たちにとっての商品であると同時に、財産でもある。彼らの価値を高めるのもまた、ヴァルミタール家の当主の仕事なのだ。」
「価値を高めるとはどういうことですか?」
「彼らを《磨く》のだ。」
「磨く……?」
「宝石少年たちは、さまざまな経験をすることで磨かれるのだ。」
アレクシスは宝石少年たちを見た。サフィルと目が合うと、深い青の瞳が優しく微笑んだ。
(磨く――彼らを?どうやって?)
「それは――。」
父が言いかけて、咳き込む。執事ヨハンが説明を引き取った。
「わたくしがご説明いたしましょう。」
ヨハンからの説明は――こうだった。
宝石少年の魂ともいえる星幽心核。
これは、生命力のようなものなのだという。
植物や動物に命があるように、石にも何かしらのエネルギーが宿る、ということらしい。
そしてこの星幽心核は、様々な経験――人の心に触れる経験――をすることで増やすことができる。
その量が増えると宝石少年としての輝きが増し、さらに、出来ることも増える。
これはアレクシスにはなんとなく、納得がいった。人間も経験によって成長する。それと同じようなものだろう。
――ただし悪に染めると、その純度が濁る――と、父が最後に付け加えた。
「なるほど、彼らにさせるのは善い仕事、善い経験でなければならないということですね」
「そうだ。つまり、人を育てるのと同じように慈しみながら、彼らの魂を磨く。それがヴァルミタールの当主の仕事――いや《使命》なのだよ。」
「使命………。」
使命、という言葉がアレクシスに重く響いた。
「今、彼らの主人――ドミヌス――は、私ということになっているが。その立場を今日、お前に譲る。」
「えっ。」
「彼らの《仕事》は、当然、外での活動となる。依頼を受けた場合その完遂を見届けなければならないが、今の私には難しい。宝石少年たちよ、このアレクシスが、新しい主人だ。よろしく頼む」
「よろしくな。アレクシス。」
真っ先に笑みを向けてくれたのは、イエローサファイア。ジョーヌだった。
アレクシスは差し出された手をギュッと握る。
「若旦那様アレクシス。誠心誠意,お仕えいたします。」
次にダイヤモンド、ディアマンテがが深く礼をする。
アレクシスはよろしくお願いします、と応えた。
「ヴァルミタールの主人。良い主人であることを願うよ。よろしく。」
ブルーサファイアのサフィル。微笑んだ形になった目の中に冷たく光る青い瞳が、射るようにアレクシスを見つめる。
アレクシスは努力します。と告げた。
「残りの二つ――二人は、どうすれば。」
「あぁ、そうだな。二人は――また今度でも良いだろう。取り外しの方法だけ伝えておかなければな。ヨハン、ディアマンテだけ残して、取り外ししておく形で良いだろうか。」
「それが良いと存じます。旦那様。」
そのやりとりに口を挟んだのは、ジョーヌだった。
「えーっ。もう取り外ししちまうのかよ。せっかくダチになれそうなんだからさ、遊ぼうぜ!」
口をとがらせて、むくれている。それをディアマンテがとりなす。
「ジョーヌ、若旦那様はまだ私たちの取り扱いに不慣れなのですから。」
それを聴き、あ、そうか、とジョーヌははっとする。
「そうだよジョーヌ、前のヴァルミタールもそうだっただろう。まずはディアマンテが色々教えてから、だ。」
サフィルが釘をさす。《弟》になだめられ、ジョーヌはすぐに不満を引っ込めた。
「そうだな。じゃあ、アレク。頑張れよ。」
取り外しされると決まってからはさっぱりしたもので、ジョーヌは「じゃ、よろしくな」と、宝石箱のそばに立つ。
ヨハンが取り外しのやり方を解説してくれる。
「では、若旦那様。ジョーヌの手に触れてください。」
ジョーヌが片方の手のひらをこちらに向けている。
アレクシスも促されるまま、自分の手のひらを合わせる。
ジョーヌが、合わせた手のひらをくるりと回し、ちょうど床と水平にした。
ジョーヌの手が上で、アレクシスの手が下。ダンスに誘うエスコートの身振りのようにも見える。
向かい合ったふたりを見て、ヨハンがうなずく。
「はい。では、元の姿に戻れ、と念じながら取り外しと言ってみてください。」
アレクシスは、ジョーヌの元の姿――黄色に輝くイエローサファイアの姿を思い浮かべ、言った。
「取り外し」
コロン……。
手のひらに小さな固体の感触。あっけなく、眼の前から人が消えて――アレクシスの手には、黄色い宝石と、金属細工の台座、鋳造心臓だけが残った。
「ずいぶんと、あっけないんだな。挿入するときに比べて。」
アレクシスは手の中にある小さな宝石を、指でもてあそびながら言った。するとサフィルがアレクシスのもとに歩を進めながら
「少年挿入は、星幽心核を拡散させて人の形を取る手順だけど、取り外しは圧縮する手順だからね。」
そう言いながら、手をまっすぐに伸ばしてくる。
「エネルギーは宝石にすべて入っていく。だから見た目の派手さは無い。これはこれで、魔術みたいで面白いだろう?」
サフィルがそう言いながら、アレクシスの手を取る。
細く長い指が手のひらをくすぐる。生真面目なアレクシスは目を白黒させている。
ディアマンテがサフィルをたしなめる。
「サフィル。坊っちゃんをあまりからかわないでください。」
「ごめんね。新しいヴァルミタールが可愛くて。さあ、僕のことも取り外しして。」
サフィルが甘い声でささやく。ジョーヌと同じようにに手のひらを重ねているだけなのに、なぜか蠱惑的だ。
アレクシスは、まるで初めて女性をエスコートするように緊張していたが、とにかく取り外しの手順をきちんと実行しなければ、と深呼吸をした。そして
「取り外し」
言葉を発すると先ほどと同じように、サフィルの姿は眼の前から消えて――手のひらに青い宝石と鋳造心臓が残った。
『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
____________________
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
『ディスポーザブル・キャスト』を面白いと思っていただけたら、ぜひ応援していただけると嬉しいです。
ページ下部の【★評価】や【ブックマーク】をしていただけると、今後の連載の大きな励みになります!
ご感想も大歓迎です。
「このキャラクターが気になる!」など、一言でもぜひ聞かせてください。
毎日更新していきますので、これからも『ディスポーザブル・キャスト』をよろしくお願いいたします。




