第7話 命を持った宝石
◯ヴァルミタール家 一階 地下倉庫奥 秘密の石室 (1902年 3月)
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アレクシスの前に、銀髪の青年が立っている。
《キャスト・インサート》という言葉とともに、
突然眼の前に現れた存在に、
アレクシスは言葉を失っている。
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「命を持った宝石……?」
ヨハンの解説《命を持った宝石》という言葉が飲み込めず、アレクシスは呆然と復唱した。
「そう。我が家では彼らのことを、《夢を見せる機械》と呼んでいる」
父グレゴールが、宝石箱を目で示しながら《彼ら》と言ったことを、アレクシスは見逃さなかった。
「ディアマンテ。これが私の息子だ。アレクシスという」
グレゴールが銀髪の青年に向けて告げると、ディアマンテはこちらに向き直り
「こんにちは。小さな主人アレクシス。」
アレクシスに膝を折るその男は、確かに人間の姿をしている。しかし――。
(彼はたった今まで、ここに居なかった。本当に、彼が――《宝石》?)
アレクシスの心を読んだかのように、銀髪の青年が応えた。
「はい。わたくしはディアマンテ。星幽心核と呼ばれるチカラを持つ特殊な宝石です。鋳造心臓を使うことで、このような人間の姿に成り代わることができるのです。」
「コアソケット……?」
「特殊な――《機械》、です。私たち宝石少年のチカラの源、星幽心核を集めて、肉体を作ることができます。私たちが人として生きるための、心臓のようなものです。」
宝石箱を覗き込むと、金属製の台座が1つ減っている。
(あれがコアソケット、なのだろうか?)
それに、改めて確認すると確かにダイヤモンドが宝石箱から消えている。
(それでは――本当に?)
疑念は確信に変わってゆく。何より、父もヨハンも至って真面目だ。
アレクシスの跡継ぎ修行開始を祝って、マジシャンを呼んだ――などと考えるよりも、眼の前で起きたことが事実だと捉えたほうが良さそうだった。
グレゴールはアレクシスの驚きは織り込み済みだったようだ。息子の驚きは横においておき、話を進める。
「ヨハン、アレクシスに少年挿入の手順を教えてやってくれ。」
「もちろんです。若旦那様。宝石を1つお手に取りください。」
有無を言わさない調子で促され、宝石箱に手を伸ばす。
「どれでもいいのか?」
宝石箱の中には、青、黄、緑、紫の石たちが、静かに転がっている。
「あぁ。そこに入っている宝石たちは、皆鋳造心臓に適合している。どれを起こしてやっても構わない。」
《宝石》を《起こす》という表現を自然に使う父を見て、アレクシスも覚悟を決めた。
これは、どうやら現実なのだ、と。
「では、これを。」
アレクシスは黄色の宝石を手にとった。
「それでは、その台座に、石をはめ込んでください。」
ヨハンに言われたとおりに、台座に石をはめ込む。外側から鉤爪を少し押すと、固定された。
「そして、念じてください。自分のもとに現れよ、と――!それが、少年挿入の最後の一押しです。」
(――《宝石》が、《人間》に――)
少しの疑念を振り払う。今はただ、念じるのだ。
(僕のもとに、現れてくれ――!)
「キャスト・インサート。」
アレクシスは、先程ヨハンがやったように、つぶやいてみた。すると再び、宝石が光る。今度は黄金色の光だ。
鋳造心臓と呼ばれた金属の台座の上に、結晶が成長してゆく。
六角柱のような結晶が巨大化し、バキバキバキッ、と、派手な音を立てて、砕け散り、割れる。
視界が、強い閃光に包まれる。
一瞬の眩しさとともに現れたのは、オレンジがかった金髪の、元気な少年だった
「おう!お前がアレクか!会いたかったぜ!」
年齢はアレクシスと同じくらいか、少し年下、だろうか?
先程のダイヤモンドとは違う親しげな態度に、アレクシスは驚いた。
「ええと、君の名前は?」
「オレはジョーヌ。」
わかり易すぎる《黄色》という名前。
アレクシスを見つめる、若干ツリ目がちの目は、その名の通り奥に琥珀のような深みを秘めた濃い黄色だ。
肌は少し小麦色に焼けているように見える。
先ほどのディアマンテよりもカジュアルな装いで、少年らしい動きやすい服装に身を包んでいるが、衣服のところどころに、黄金色のきらめきが織り込まれている。やはり、普通の少年では無いことは明白だった。
「ジョーヌ」
「おう、なんだ、アレク!」
歯を見せて笑う。身体全体から元気さが溢れ出ているみたいだ。
「はじめまして。僕は、アレクシス」
「知ってるぜ!さっきグレゴールが言ってたじゃんか!」
あははっ、面白いやつだな!と屈託無く笑う。
アレクシスは距離感を掴みかねながらも、後輩に接するような口調で話しかけてみた。
「ええと、君はトパーズ?」
「ちげぇって。オレはイエローサファイア。そこに居るサフィルの、双子の兄さ!」
「―――すまない、黄色の宝石というのを、他にあまり知らなかったから。」
しゅんとするアレクシスを見て、ジョーヌはわざとらしく、頬を膨らませて言った。
「おい、グレゴール。お前の息子、ちゃんと宝石を扱えるのか?心配だなあ、もう。」
「ははは、お手やわらかに頼む。」
父と黄金色の少年の間に、温かな空気が流れる。
「お父様、彼も――《命を持った宝石》なのですね?」
グレゴールは穏やかにうなずく。
「そう、彼も宝石少年だ。彼の言う通り、イエローサファイアだ。ではもう1人、起こしてごらん。」
アレクシスは少し悩んだあと、3つ目の石として、サファイアを選んだ。
イエローサファイアのジョーヌが双子だと言ったのが気にかかったためだ。
もう、やり方に迷うことはなかった。
ヨハンに習った通りに、鋳造心臓の台座に宝石をはめ込む。
そして、自分のもとに現れよ、と祈りながら――
「キャスト・インサート!」
サファイアが発するのは、青い光。
炎のようにゆらめく光の中で、青い六角柱結晶が育ってゆく。
双子だからか、結晶の形は先程のジョーヌと同じだった。 大きくなった結晶が割れ、現れたのは、少女にも見えるような、美しく蠱惑的な少年だった。
「久しぶりだね。ヴァルミタールの主人。」
ジョーヌとは違う、白い肌、細い指。深い紺色の髪は青い光を帯びている。
瞳は海のきらめきを閉じ込めたような青。衣服も装飾が多く、貴族的な印象をうける。
所作も、表情も、上流階級を感じさせる。
グレゴールに対しても、主人、と呼びかけながらもまるで彼のほうが立場が上であるかのような威厳がある。まるで、何処かの国のお姫様がやってきたかのようだ。ヨハンも自然と手を出し、彼のエスコートをしている。
「君が、新しい主人かな?はじめまして。あたらしいヴァルミタール。」
手を取られ、手の甲に忠誠のキスをされる。
《少年》だと解っていても、顔がかっと熱くなる。彼の青い瞳の冷たさが、火照る頬を余計に意識させた。
「この姿で会うの、久しぶりだな。サフィル。」
目をきらきらさせて、黄金色の少年が肩に手をかけた。
「そうだね、ジョーヌ。」
サフィルはさっと、肩から手を外し、微笑む。
「つれないなぁ、双子の兄ちゃんとの再会だっていうのに。」
片頬をふくらませて、斜めに視線を送るジョーヌに対し、サフィルは
「双子といっても……過去を共有しているわけでもないからね」
とそっけない。
「外で活動するときに、兄弟だって言ったほうが良いって、言われたじゃないか。そうだよなディアマンテ。」
取り付く島がないジョーヌは、ダイヤモンドの青年にに助けを求める。
「確かに。そのようにお伝えしましたね。」
ディアマンテは微笑んで答える。
「ほらあ、ディアマンテのアニキもこう言ってるぜ」
「その、アニキとかっていう設定、この家の中で必要ある?」
まるで兄弟のように会話する――美しい宝石たち。宝石少年。この目で見ると、信じるしかなかった。
『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
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