第9話 夢を売る仕事
◯ヴァルミタール家 一階 地下倉庫奥 秘密の石室 (1902年 3月)
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眼の前にいた少年たちは、石へと戻った。
秘密の石室には、アレクシスと、
父グレゴールそしてヨハンと、
宝石少年でただひとり、
ディアマンテが残されている。
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アレクシスがふう、と一息つくとヨハンが穏やかに言った。
「もうおわかりですね。これが取り外しの手順です。鋳造心臓から戻すときも、それ以外のものから戻すときも基本的には同じ。手のひらの上に宝石少年を載せ、宝石の姿で帰ってくるように念じて取り外しします。」
「ディアマンテさんは、どうするの?」
「ディアマンテ、とお呼びください。若旦那様。あなたは私の主人なのですから。」
「――わかりました」
主人、という言葉の重みを実感した。どのような口調で話しかけたら良いか、一瞬迷ったが、ヨハンに対するものと同じで良いのだ、と思いあたり、そのように話すことにした。
「ディアマンテは、取り外ししなくて良いのか?」
「はい。私はしばらく、若旦那様のおそばで働きます。ヴァルミタールの新しい主には、お伝えすべきことが多くございますから。」
どうやら、ディアマンテは宝石の主人の教育役になるものらしい。父も言葉を添える。
「私もディアマンテから、宝石少年のことについて色々と教えてもらった。お前も話を聴き、彼らをどう《磨いて》ゆくか考えると良い。」
「わかりました。お父様。今来ている《依頼》はあるのですか?」
「どうだったかな、ヨハン。」
「酒屋の帳簿整理の仕事がございますね。以前も派遣をしていましたが、旦那様が体調を崩されてから2年ほど行っていません」
「ああ、そうだった、ヴィーノの酒屋の依頼がそのままになっていたな。丁度良い。その依頼をアレクシスにやらせよう」
「かしこまりました。ヴィーノ・ピーヴァ様にはご連絡差し上げておきます。」
「どのような依頼なのですか?」
「年に1度、酒屋の帳簿と、倉庫の目録を整理する依頼だ。倉庫の酒との照合、帳簿への書き起こし。あとは、外国から仕入れた酒の整理なんかだな。」
「それが、ヴァルミタールが売る《夢》なのですか?」
どうも、《夢》という言葉からはかけ離れている気がする。帳簿つけに倉庫整理。とても現実的な仕事だ。
父は笑った。
「ただの人材派遣業のように聞こえるよな。そう、この依頼はただの人材派遣でも実現可能だ。だが。異国の文字が読める者。計算が出来る者。倉庫を夜通し歩き回り整理してくれる者。それぞれ違う能力だ。専門性が違う人間を一人ずつ雇おうと思ったら金も時間もかかる。」
「確かに、そうですね」
「それをヴァルミタール家の優秀な《執事》が、一晩で解決!――どうだね、商売人の《夢》だと思わんかね」
なるほど、極めて現実的な話ではあるが、確かに、店を経営するものにとっては夢のようなサービスだ。
「雇う人間が一人なら、仕事の説明だって短く済む。それにウチは、あの店に毎年派遣をしているのだから、その説明コストだってゼロだ。」
「毎年、どなたが派遣されているのです?」
「そこにいるディアマンテだよ。お前は業務の開始と終了を見届ければ良い。初仕事にぴったりだ。さあ、そうと決まれば支度だな。ヴィーノの家はいつ行っても良いのだろう?」
「はい。準備ができ次第すぐにでも来てほしいとおっしゃっておいででしたから」
「では、今日支度をして明日だな。アレクシス、頑張れよ。」
「はい!」
「その宝石箱は、自室に持って行くと良い。宝石たちと共に過ごすことも大切だ。時々人の姿にして、話をするのも良いだろう。
宝石たちは鍵付き棚に入れるか――何かに挿入しておくか。盗まれないように気をつけるのだよ。」
「わかりました!」
宝石少年という特別な存在であることはもちろん、宝石としても明らかに超・高級品だ。
コレが盗まれたら――と考えただけで身が縮む思いだ。
父とヨハンと――ディアマンテといっしょに、アレクシスは地下室を出た。
ディアマンテはヨハンと同じく、使用人の部屋で過ごすらしい。
アレクシスは他の宝石少年の入った宝石箱は大切に胸にかかえて自室に運んだ。
◯ヴァルミタール家 二階 アレクシスの自室 (1902年 3月)
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アレクシスの自室。書き物机にベッド。
大きめの窓の横に、
ガラス扉のついた小さな鍵付き棚がある。
棚には本に、昔の宝物を入れた箱。
本が置かれた棚の横に、空間がある。
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アレクシスは自室に戻ると、書き物机の引き出しから、古びた金色の鍵を取り出した。
部屋の隅にある目立たない鍵付棚の鍵を回し、硝子の扉をあける。
あいている棚の、できるだけ奥の方に、宝石箱を置いた。
扉を閉じ、鍵をかける。鍵はペンダントのようにして、肌身はなさず身につけることにした。
棚に箱がある。それ以外はいつもと同じ、ひとりの夜だ。アレクシスはいつも通りベッドに潜り込もうとして――ふと、棚の中の箱を見る。
箱は、ただ静かにそこにある。
「………おやすみ。」
箱の中の石たちに届いているのかはわからない。アレクシスは静かに、目を閉じた。
――これが、すべての始まりだった。
『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
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