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第15話 挨拶


◯教会 神父の部屋  1902年4月


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教会の神父様の部屋

ドアの前で緊張するデアリス、

それを見守るマルス

仕事をはじめるという挨拶に

ふたりは教会へと来たのだ

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「よし、そんじゃあ行くぞ、マルス」


 コンコン、と深い茶色の扉をデアリスはノックした。

 ここは、教会の奥にある一室、ルビアの教会をまとめる神父様の部屋。挨拶に来たは良いけれど、思えば改まってあいさつすること等、はじめてだった。


「失礼します」


 扉を開けて、デアリスが軽く礼をした。


「デアリス、よく来たね。話とは何かな?」


 神父の柔らかい笑顔で迎えられ、すこし安心するデアリス。

 教会に人を入れるなら、きちんと紹介をした方がいいとシスターに言われ、マルスを紹介しに仕事の挨拶をしにやってきた。

 マルスとはちゃんと話した。設定は万全だ。


「初めまして、神父様。マルスと申します」


 神父は軽く目礼をした。


「噂は聞いておりますよ。デアリスと一緒に、教会や孤児院の雑事を手伝ってくださっているとか」

「ご挨拶が遅れました」


 マルスは会釈をした。


「私は以前、とある国で傭兵をしておりました」


 デアリスが話す間も無いくらいにマルスの説明はよどみがなかった。


「長く戦に出ていたものですから、もう親しい者も、帰る場所もなくなってしまいました。そうして旅をするうちに、この街に行き着いたのです」


 少し間を置いて、続ける。


「街に来て、財布をスラれてしまいましてね。困っているところを、この青年が助けてくれました。聞けば彼も、ここを出て独立しようとしているところだとか」

「なるほど」

「昔は傭兵以外にも、荷運びであったり、便利屋のようなことをしながら旅をしてきました。彼と一緒に、そのような仕事をこの街でしようかと思っております」


 マルスのしっかりとした物言いに、神父も安心したようだった。デアリスもその様子に安堵する。


「自分はこの通り、腕っぷししか能がない者ですが……」


 マルスが笑い、視線でデアリスを指す。


「どうやら、この青年はずいぶんと人に好かれるようですね」

「デアリスは、なんと申しましょうか。人懐っこいというか、放っておけないというか……」


 神父は少し考え、柔らかい笑顔を浮かべる。


「そう、出来の悪い子ほど可愛いというか」

「神父様?」


 デアリスがすかさず、突っ込んだ。


「ははは。冗談だよ、デアリス安心しなさい。」

「ちょっと冗談に聞こえなかったんですけど……」

「まあ、その真偽は置いておくとして」


 神父は穏やかな顔に戻った。


「デアリスは十歳の時に大火傷を負い、生死の境をさまよったことがあるのです」


 そのころ、教会の皆は必死で彼を看病した。

 そして彼が回復した時には、皆が心から喜んだ。


「なので彼は、この教会の者たちにとって、特別な――皆の子供のような存在なのです」

「……神父様」

「そうでしたか」


 マルスは神父の話に静かにうなずいた。


「あの、それで神父様」


 デアリスが身を乗り出した。


「オレ、マルスと二人で便利屋の仕事を始める事にしたんです」

「便利屋かい?」


 神父は優しい声で聞き返す。


「一応ね、オレの会社ってことにするつもりなんだ」

「会社というのは、書類手続きをきちんとして登記を済ませなければならないんだぞ?出来るんのか¥」「」

「いずれそうするってとだよ。今はまだ二人だけだし……」


 ふむと頷く神父にデアリスは言葉を続ける。


「でも、そのうち仲間も増やそうと思ってるんだ」

「仲間?」

「マルスの知り合いも何人かいるって。旅先で出会ったサーカスの子とかも、この街に来るかもしれないんだってさ」

「ほぉ。サーカスの子供」


 デアリスの説明にマルスが補足を入れる。


「子供が曲芸をしているのです。大変賢い、面白い子です」

「それに、貴族のお屋敷で働いていた人の知り合いもいるんだって」


 リーチアのことだ。後からごちゃごちゃと設定を付け足すのは面倒くさい。

 そういう発案で、とりあえずマルスが旅先で知り合った面々ということにして、いずれ合流するかもしれないと話しておこう、ということになったのだ。


「だからさ、その三人と俺で仕事をしようと思うんだ。大きい仕事ができるようになったら、会社にする」

「デアリス、お前が彼らのリーダーなのかい」


 神父は苦笑した。


「務まりますかね」

「俺よりも彼が適任です」


 マルスが答えた。


「やはり、主人というのは人に好かれてこそですから」

「デアリス、マルスさん、よく分かったよ」


 神父はうなずいた。


「ところで、このお客人が寝るベッドはあるのかな」

「俺の部屋、もともと相部屋だけど、今は俺一人で使ってるから問題ないよ」

「分かった。寝具はもう一組、運ばせよう。それで構いませんか」

「もちろんです」


 マルスは嬉しそうに言った。


「屋根があって、ベッドがあるなんて。戦暮らしからしたら夢のようなものです」

「そうですか」


 神父は少し笑った。


「デアリス。ここの暮らし方のルールは、彼にはもう伝えたのかね」

「まだ全部は……」

「では、説明しておこう」


 この教会での暮らし方のルールは、シンプルだった。

 男女の生活が分かれている場所には、みだりに入らないこと。

 ここは、男たちにひどいことをされた女性が駆け込んでくる場所でもある。

 大抵の女性は、特に男性そのものに抵抗があるわけではない。

 けれど、マルスのような大柄な男性を怖がる女性もいるのだ。

 それはデアリスにも、よく分かっていた。


「主に男性棟の方で暮らしてもらいます。仕事をする時には、もちろん食堂なり、孤児院なり、日中であれば行ってくれて構いません」

「助かります」


 デアリスの部屋は男性棟の屋根裏にある、女性陣に不可を掛けない為の配慮だろう。

 マルスとは出来る限り一緒に活動するように意識する事を決めた。

 そのまま神父は続けた。


「しばらくの間は、デアリスと一緒に行動してください。突然、知らない者がいると驚く人もいるかもしれないから」

「分かりました」


 マルスは答えた。基本的に認められたことで、デアリスは安心した。


「ありがとうございます、神父様」


 騎士のように、マルスが深々と礼をする。


「どうか、この子を頼みますよ」


 そういうと神父は優しく目尻を下げながらデアリスを見た。


「良い顔つきになったね。いい出会いがあったんだろう。君たちの向かう先に幸多からん事を願うよ」


 デアリス達は神父に礼をして、部屋を後にした。


 ◇ ◇ ◇


 屋根裏の自室に戻る途中、デアリスは、とある事に気が付き思わず声が出る


「あ!」

「どうした?兄弟(マスター)」

「便利屋の名前、まだ考えてなかった」

「ああ、名前か、なんか案はあるのかい?」


 うーんと悩むデアリスとマルスは腕を組んだ。


「やっぱり、デアリス便利会社?」

「がははは!」


 マルスが豪快に笑った。


「なんだその、何の捻りもない名前は」

『絶望的、センス』

「そんなん言ったって、名前なんか付けたことないし」

「絶対、もっといい名前、あるだろ」


 胸ポケットのふたりもまざり、四人で案を出し合った。


 ルビアパートナーズ

 デアリスハンディワークス

 ディアリース

 デアリス・クラフト

 便利堂でありす……。他、候補多数。


 ああでもない、こうでもないと、しばらく名前を出し合うも。


 ……最後はわかりやすさから【デアリス便利会社】に落ち着いた。


『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』

原案:神田明子

作:西瓜すいか・差異等たかひ子

企画・制作:Hisshigumi Project


※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。



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最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


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