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第13話 侵入《インフィルト》(リーチア視点)


◯デアリスの夢の中  (1902年 4月)


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夢の中、

リーチアは浮遊しながら、

降下して行く。

幼いデアリスが泣いている

周りには火が迫っている。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/



 はじめての侵入(インフィルト)。

 リーチアは主の意識の中を泳ぐ様に、下へ下へと入って行く

 辺りは呼吸の出来る深海の様で、重力を感じず、泳ぐ様に飛んでいる様な状態である

 暫く潜っていると、赤黒い炎が見え、煙に包まれた。

 リーチアが目を凝らすとその中心に主の面影のある10歳前後の少年の姿があった。


「主人(マスター)、見付けた」


 息を切らせ、宝石達の主が走っている。その場所へと、リーチアは急ぎ、深く潜った


「待って」

「お前、だれ……」


 怯えた声で幼いデアリスは震えている


「主人(マスター)、大丈夫、これは……」


 これは夢、と言葉を続けようとした瞬間、得体のしれない黒い塊がリーチアを襲った

 それは竜の様な形をした黒煙。おそらくこれが悪夢の元凶だろう


(接近、困難。打開策……)


 リーチアは、再び泳ぐように距離を取り、様子を伺う

 そこに見知らぬ修道女がデアリスに向かって駆け寄った、そして少し後にどこかで見覚えのある青年が彼女を追って走っている

 黒煙と幼いデアリスの間に、修道女が飛び出す、黒い煙が彼女を襲う。


「――!」


 黒煙と対峙した聖女と、助けようとしたが間に合わず叫ぶ青年。それを目撃して声に成らない叫び声を上げる、幼いデアリス。

 リーチアは主を抱きしめて、修道女の惨劇を見せまいと視界を塞ぐ。


 黒煙がスモッグの様に周りを包む、視界が煙で覆われて、周りに何があるのかも見る事が出来なくない。

 腕の中で震える主を安心させる為に、抱きしめる腕を、優しく強める。


「大丈夫。これは、夢」

「夢……?」


 リーチアは、大きく息を吸い、吐く。

 デアリスを落ち着かせる為の行動だ。

 しかし肝心のデアリスにはその糸がが伝わらないのだろう。呼吸は荒く、過呼吸の様な状態になっている


 (伝わらない、駄目。ちゃんと、伝える。)


 リーチアは、少年の肩に両手を置いて、目を真っ直ぐ見詰めた


 (主人(マスター)、大丈夫、ひとり、違う。)


 安心させる為に、口角を少し上げる。そして合わせた視線をそらさずに、ゆっくりと言葉をを紡いだ。


「主人(マスター)、真似、して。出来る?」


 その様子を見て、コクンと頷いてから、幼いデアリスは息を整えた。

 次第に、周りの煙も火も、落ち着き、

 リーチアは主が落ち着いたのを見て、再び口を開いた


「思い出す、ここは、夢。」

「……夢?」

「主人(マスター)、リーチア、わかる?」


 質問の意味を考える間の後、デアリスが目を大きく見開き呟いた


「リーチア……?」


 デアリスが声を出すと、暗くくすんでいた世界が、鮮やかに色づき、少年は現実世界と同じ青年の姿へと変貌した

 リーチアはそれを見て、再び微笑む。


「主人(マスター)。」

「え、どうしてリーチアが?というかここって……」

「夢。でも、まだ夜。」


 リーチアの身体がライラックピンクに光る。光は、デアリスの夢を包む様に広がる。

 デアリスは光の中で瞼をとじ眠りにつく。リーチアは膝に主の頭を乗せて、話しかける。


「おやすみ、主人(マスター)」


 デアリスの潜在的なトラウマが悪夢を作っていたのだろう。

 悪夢で張り詰め続けた精神が和らぎ、デアリスは数年振りの穏やかな夢を受け入れ、夢の背景はデアリスの暮らす屋根裏部屋に塗り替わっていく。

 机の上には、自分たちの収まったビロードの箱があるのを見て、リーチアは胸の辺りにぬくもりを感じた。


「リーチア、役、立てた? 主人(マスター)」


 主の頬を撫でながら呟いてから、リーチアは侵入(インフィルト)を解いた。

 デアリスの肉体から出ると部屋でメタルブラックとラズベリーカラーの光がリーチアを待っていてくれた。


「上手くいったみたいだな、ありがとうな、リーチア」

「……うん。」


 (返答、わからない。主人(マスター)なら、わかる、の?)


 マルスから礼を言われ、リーチアは言葉に困っていると、シュピナが間髪入れずに話を始めた


「リーチアは勘がいいねぇ、はじめてなのに殆ど完璧。これは成長が楽しみだねぇー」

「成長……」


 その言葉に、リーチアは「ふっ」と口元を綻ばせる。


 (宝石、成長する、興味深い)


「今日、はじめて笑うのを見たぞ。お前はその顔の方が愛嬌がある、たまには兄弟(マスター)にも見せてやってくれ」


 それをマルスが笑いながら茶化してくる、リーチアは表情を出来る限り無表情に戻そうとする。


「……考えておく」


 今まで感じたことが無い感情に戸惑いながら、リーチアはビロードの箱へと帰る。


 その様子を微笑ましげに見ていたふたつの光もリーチアを追って、ビロードの箱へと収まった。


 悪夢に苛まれる声が、その日屋根裏部屋で聞く事は無かった。


 この時のリーチアはまだ知らなかったが、数カ月後、とある人物の薦めで読んだ本によると

 心の傷を癒し、精神の休息を促すというのがクンツァイトの影響、との事だった。

 その文章にリーチアは、この日の侵入(インフィルト)を思い出した。


『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』

原案:神田明子

作:西瓜すいか・差異等たかひ子

企画・制作:Hisshigumi Project


※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。



____________________


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