第12話 ビロードの中の作戦会議
◯孤児院 デアリスの部屋 ビロードの箱の中 (1902年 4月) 夜
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
デアリスの机の上にはビロード箱
取り外しされた
宝石達と
鋳造心臓を収める。
宝石の主である青年は、
眠る準備をしている。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
宝石少年達を収めたビロードの宝石箱に、主であるデアリスが夜の挨拶に来た。
彼は、今日一日慣れない事の連続で疲弊したのだろう。その姿はどことなくボロボロである、
眠そうに目をこすり、これから寝るというのに、髪が朝の寝癖の様にボサボサだった。
その様子に笑うのを我慢できずに、マルスはねぎらいの言葉を掛けた
『ははは、随分とお疲れだな兄弟。今日はしっかり休むといい、睡眠は大事だからな』
「ああ、ありがとう。でも、どうかな、今日はあの夢見ないと良いんだけど」
『あの、夢?』
リーチアがデアリスの呟いた《あの夢》という言葉に反応する、マルスも、少しその言葉に引っかかりを覚えた。
『兄弟、夢見が悪いのかい?』
「えっと、大丈夫だよ。いつものことだから慣れてるしさ」
デアリスは力なく笑った。
(……それを、大丈夫ではないと言うんだ、兄弟……)
と、マルスが言おうとするよりも早くリーチアが言葉を返した。
『いつもなら、尚更大問題』
的確な返しにデアリスはうなだれる。反応を見るに、睡眠の質は相当良くない状態だと推測が出来る、
マルスとリーチアの反応にデアリスは鳥の巣の様な頭をポリポリと掻きながら、白状するように言葉を続けた。
「なんかさ、いつも同じ夢見るんだよな……。目が覚めると忘れるんだけど、嫌な夢だってのはなんとなくわかるんだよな……」
『主人、大丈夫?』
「ああ、大丈夫だよ。ありがとうなリーチア、心配してくれ、て……ふあぁ」
デアリスは堪え切れずにあくびをした。本当に眠気の限界なのだろう。言葉もあやふやになって、船を漕ぎはじめていた。
『ふたりともそこまで。心配なのはわかるけどさぁ、相棒の事はもう寝かせてやろぉ』
『……ああ、そうだな。悪い、兄弟。おやすみ』
宝石たちがおやすみと伝えると、デアリスはわるい、と謝ってから宝石達の居るビロードの箱を閉じた。
「おやすみ、宝石少年」
ベッドへと向かう足音、そしてばふっとと寝そべる音が、箱の中にまで聞こえる。
(戦場で魘されている兵士を、幾人も見てきたが……連日の悪夢は心身を蝕むからな……どうにかしてやれたらいいんだが)
おそらく、暗い箱の中でマルスを始めとした宝石少年が主の心配をしていただろう。
暫くして、微かに寝息が箱の中にも聞こえてくる。
『兄弟、無事寝付けたようだな』
『そうだねぇ』
『主、入眠確認。はじめる、いい?』
主の寝息を合図に、リーチアが口を開いた。
シュピナは恐らく、話し合いの事を忘れていたのだろう。ピンと来ていない声を出した。
『はじめるって、何を?』
『話し合い、はじめる』
今回の話し合いは、デアリスとマルスとの仕事上の設定は決まったが、他のふたりの設定が決まっていない為。
リーチアを中心に《夜の内に仕事上どういう設定で動くのかを決める話し合い》を宝石少年達で
決める為のものだった。
そして、反応を見るにシュピナはその事自体を忘れていた。
『あーそうだ!忘れかけてた、あははは……。よぉし、やりますかねぇー』
話し合いが始まる。ビロードの箱の中にシュピナの赤とリーチアの薄赤、そしてマルスの黒鉄色の光が満す。
この光は、それぞれの石が持つ、星幽心核の光だそうだ。
詳しくは解らないが、マルスはこの箱に集められた時に、シュピナからそう教わった。
限定された空間で星幽心核同士が重なり合うと、お互いの《魂》の形を感じる事が出来た。
そしてこのビロードの宝箱は、星幽心核の共鳴を促すことができる、素材が使われているとのことだ。
(ふむ、何度体験しても、不可思議だ。……だが、この状態は肉体が在る時の様に相手の表情がわかるのは話が早くとてもいい)
それぞれの、姿は少年挿入した時と殆ど変わらない。
『よし、それじゃあ、朝が来るまでに決めないとだな、ふたりの立ち回り方を』
その言葉にリーチアが頷いてくれた。
『まず、設定、決める』
『りょーかい』
マルスは自分の立ち回り方が決まっている為、気楽に二人の話を聞くつもりで、話を促す事にする
『まずは、ふたりが名乗れる職業が必要だな……』
『でもさぁ、マルスは用心棒なんでしょ?それと並んでも変じゃない設定って……そもそもむずかしくない?』
『うーん……兄弟の話じゃ、以前より荒事が少なくなった時代だと言うが……』
マルスが本来使われていた働き方。傭兵、特に肉弾戦の戦士等尚更必要とされない時代だ。
用心棒みたいな仕事と横並びに出来る仕事は、今の時代は限られているだろう。
『しかし、決まらないならば、いっそのこと全員用心棒を名乗るという手も……』
『それは無理があるよぉー。実際人間よりは強いけどさ……見た目的にも、ねぇ』
早く決めるほうが良いと思い提案したが、反応は否定的だった。
しかしシュピナが言っている通り、腕っぷしだけでなく、見た目で制圧する事も用心棒に求められるスキルだ。
一方は齢十余り頃の少年、もう一方は背はすらっとしているが女性の様な外見の華奢な青年。
(このふたりの華奢な身体では、その条件を満たすのは難しいか……)
マルスの体躯ならなんの問題も無い。しかし基準としては規格が違いすぎる。
マルスは大きすぎるし、シュピナ達は小さすぎるのだ、とてもじゃないが同じ仕事をしている様には見えない。
『余計な話をしてしまったな……他の案を考えよう』
再び、ふたつの宝石は考える。そこにポツリと、リーチアの細い声。
『チームでの、仕事内容、先、決める』
マルスとシュピナへ、リーチアは提案した、マルスはその内容に頷く
『各々の分野がバラバラでも、外から見て違和感のない職業にすれば、成立するな』
それを聞いたシュピナが飛び上がる様なテンションで提案をした。
『はい!サーカス団はどう?いやぁ~、いいとおもうんだよね、サーカス!』
楽しそうに、大きく明るい声で宣言するシュピナに、マルスは思わず頭を抱える
『おいおい、お前さん。それは自分がやりたいだけじゃないだろうな』
『いやいや、そんなんじゃぁ……』
白々しく、あくまで皆の為の提案だと言いたげにするシュピナ。
その思いつきの発言に、マルスが呆れていると、鋭く無機質な声がその提案を拒否した
『却下』
声の主リーチアの容赦の無い意思。しかし納得していない様子でシュピナは自分の提案を続ける。
『えー、いいだろぉ。マルスは怪力だし、リーチアも器用そうだから
オイラがコーチすればこの街一番のサーカス一座を絶対作れると思うけどなぁー』
『自己中心的思考。拒否』
冷たい空気が、ビロードの箱を包む。一瞬の間。
『あれ。なんだろう。その言葉、なんかめちゃくちゃ効いた……』
マルスがシュピナの方を意識するとあからさまに凹んでいるオーラが漂っていた。
リーチアはその反応にため息を吐いた。マルスはそれを見てなんだか微笑ましくてマルスは笑った。
『ははは、シュピナに手厳しいな、リーチア。』
『ちょっと、マルス!オイラ傷ついてるんだよぉ、少し位さ、励ましたりさ』
『自業自得』
(喧嘩?するほどなんとやらだな)
このやりとりが出来るならふたりは恐らく人として相性がいいのだろう。仲が深まるまでに案外時間はかからなそうだ。
『まぁ、俺としてはシュピナの言っている案も面白いんだが、案のひとつとしてキープするのは駄目かい、リーチア』
『仕事、遊びじゃない。面白い、無関係』
マルスの言葉に、食い気味でリーチアの否定が返えってきた。
彼の言う通り仕事は遊びでは無い、何よりシュピナの案は本人の趣味に偏りすぎていたから、尚更だ。
しかしサーカスというのは、宝石少年には丁度良いかも知れないが、人間であるデアリスの仕事としては、周りから受け入れられるとは考え辛い。そもそも、現状の案はすべて一般的ではないのだ。
『振り出しに戻る、だな……』
案が広がらないのは、情報が足りていないからだろうか。
この箱に集められた時、お互いの話は多少していたが、あくまで表面のことばかりだ、
(出来ることの深堀りをするべきか……)
マルスの戦士としての経験が告げる。
戦は如何に適材適所で兵を配置するかが重要だと。そしてそれは現代の仕事も変わらないと。
『まぁ、なんだ。まずは自分が出来ることを改めて教え合おうとしようか』
『あー。そうだねぇー』
その意見に、ふたつの宝石が、同意した。
『オイラは演技や曲芸。アクロバットとかが得意かなぁ』
『薬学、少し、知識ある』
『俺は、力仕事や荒事、あとは剣術や武術だな』
マルスは薄々予測はしていたが、本当にそれぞれの出来ることがバラバラだという再確認となった。
それぞれの、スキルを活かせる仕事、ひとまとめにするのはやはり難しい、か。
『オイラは、他の宝石少年と一緒に前のマスターと過ごして、割とすぐ最初のサーカス一座と旅に出てるからなぁ……』
『最初の主、貴族の教育係だった。教える声、聞いてた』
薬に、曲芸、荒事。それぞれ別々の仕事なら成立するが、デアリスのはじめる仕事としてまとめないといない為難しい。
このバラバラな個性を活かす、そんな職業。考えれば考えるほどひとまめにするのは困難だった
『シュピナ、他の宝石少年、何、してた?』
『そうか、シュピナは他の宝石少年と過ごした事があったと言ってたな』
『えー、オイラが一緒にいた宝石少年かぁ……』
リーチアの問いにシュピナは昔の記憶を思い出そうとしているのか腕組みをした。
『執事とか、教師とか探偵みたいな事してたかなぁ。
というか依頼に合わせて、役割を演じるのが仕事だから、決まった職業は……あ!』
唐突にシュピナが何かを閃いたのか叫ぶ。
『あ、そうかぁ。同じでも良いのか!』
『『同じ?』』
リーチアとマルスの声が、思わず重なる、ふたりはシュピナの言う同じと言うのは何を指しているのかを想像出来なかった。
『昔、世話になった奴らは人材派遣業をしてたんだよ』
『人材派遣』
『これは、ありでしょ?』
シュピナの問に頷くリーチア。確かに人材派遣なら出来ることがバラバラな方が仕事の幅が広がる
いい案だ、言い換えができればすぐに決まる。
『ただ、人材派遣、って名乗るのは少しお堅いかもな。兄弟には似合わない気がする』
『たしかにぃー……名乗っているのをイメージ出来ないし、なんか、頼りなく感じるね』
もっと親しみやすくすれば、デアリスらしくなるはずだ、と、全ての宝石少年が考えた
『マルス、便利屋、みたいなのしてた、言ってた』
『そう言えば、俺の設定の話の時に兄弟にそんな事を言ってたな』
『じゃあ【街の便利屋】にするのでどうだ!?』
シュピナが見栄を切るように提案する。
『賛成』
それに対して、リーチアが肯定を示した。シュピナは、その様子に胸をなでおろしている。
『おし、決まりだな』
便利屋なら、どんな人材が居ても困らない。それぞれの分野を活かせる仕事をすれば成立もするはずだ。
『あとは社名とかも決めちゃう?』
『それは、兄弟も交えて決める内容だな』
『あ、それは、たしかに。相棒拗ねちゃいそうだもんねぇー』
次はどうしてデアリスと一緒に便利屋を始める事になったのか、その背景を決める。
『さて、大枠は決まった訳だが。細かいところも決めないとな』
マルスは武術の師匠に彼を守るように言われた、という設定。
さて、サーカスの少年。そして薬学を学んだ青年が、どうして孤児の青年と便利屋をはじめるのか……。
皆が考えているとリーチアが提案した。
『シュピナ、サーカス独立資金、貯めたい、だから、マルス、頼った、どう?』
『それは旅の途中でシュピナと俺が知り合ったって設定かい?』
『そう、主人、街、出たこと無い。だから』
『マルス経由ならおかしくは無いって事かぁ』
まぁ、通せなくは無い設定だ。と、マルスは関心する
『私、親の薬屋、潰れた。困ってた時、主人に仕事誘われた』
『待て、自分の設定だけ投げやりになっていなかい?リーチア』
『問題ない、辻褄は、合ってる』
『おう、そうかぁ……』
設定は荒いがちゃんと決まった、このまま眠るでも良いが、それではもったいないとマルスは感じた。
昔は新しい部隊に新人が入る度に祝っていた。それはお互いの弱さも強さも見せ合い背中を預ける為の儀式でもあった。
(折角だ、提案しても問題ないだろう)
『おふたりさん。ここでひとつ、親睦を深めるってのはどうだい?』
『親睦、深める?』
主であるデアリスも、ここに寄せ集められた宝石少年も、これから仲を深めていくべき仲間だ
同じチームに成る為にも、時間を掛けてコミュニケーションは積極的に取りたい。
『お互いを知って仲を深めるために会話したり食事したりって事、だよね?マルス。』
『まぁ、そんなところだ』
首を傾げるリーチア。
『宝石少年、食事いらない』
『まぁ、たしかに食べなくても問題ないな、食う事は出来るが。だが本質はそこじゃない』
『本質?』
更に深く首を傾げるリーチア、彼には知識はあるが実体験がないのだと改めて感じ、マルスは言葉を続けた――
『同じ食卓を囲むのは、人にとって大きい意味がある、と俺は思う。今回は俺達で話すだけで良いが、リーチアと兄弟とは一緒に食事をしてもらいたいものだ』
『……わからない』
その返答に、マルスは苦悩した。主と一緒でフィーリングと野生の勘で物事を理解している
論理邸に伝えるのは、苦手なのだ。
(困ったなぁ、どう説明したものか……)
『上手く説明が出来ないんだが……あー、こういう時、人間相手なら一緒に酒でも飲めば距離が縮みやすいんだがな』
『あー、たしかに、お互いを知るには便利だよねぇ、お酒。』
『飲むだけで、知れる?』
理解が出来ない文化なのだろうか、それとも興味を持ったのか、リーチアが疑問を口にした
『人は、素直に成るのにも色々条件がいる生き物だ、その条件のひとつが酒という感じだな』
『……いつか、わかる日、来る?』
『ああ。その内分かるようになるさ。』
その言葉に安心したのか、リーチアは「良かった」ととても小さな声で呟いた
『……折角だ、俺達のマスターから教わるといい』
リーチアは頷いてくれた
(人間の心を理解したいと思っているのか、正直、意外だな)
素直に理解したいと思えるリーチアの純粋さに、マルスは好感を持つ。
『どうだい、兄弟は?』
『どう、とは?……質問意図、不明』
リーチアは、問いに対して首を傾げた
マルスは、「ふむ……」と言って、すこし考えたあと。いつもよりもやわらかい声を意識してリーチアに言葉を掛ける
『仲良くやっていけそうか、聞きたかったんだ……どうだい?俺達の兄弟は』
『仲良く……、わからない。でも、主人、面白い、と思う。』
『ハハハ、そうか。なら問題なさそうだ』
マルスが豪快に笑う、リーチアはマルスを不可思議な表情をで見て、再び首を傾げた。
決して不機嫌な様子はなかった、ただ、マルスの言う《問題が無い》、がどう問題が無いのかが、理解出来ない様子。
言葉に込められた意図を理解する為に、リーチアはそうやって考えているのだろう
『……ねぇ、ふたりはさ』
マルスとリーチアとのやり取りを聞いていたシュピナが、問いを投げた。
『なんだ、シュピナ」
『宝石少年……いや鉱石が人になにかしらの影響というか、作用があるって話、聞いたことない?」
マルスはリーチアと一緒に首を傾げた、鉱石が人に影響を与えるというのは、
『いや、聞いた事が無い」
『同じく、初耳」
リーチアは頷きながらマルスの言葉に同調する、シュピナは「そうかぁ」と何かを説明しようと、悩みはじめた
『影響ってのは、例えるならば具体的にはどんなだ?」
『例えかぁ……あ、それじゃあヘマタイトの話をしいようかな」
『ここから南の方向にある国に、一座で行った時にさ。その国の大工のおっちゃん達が教えてくれた話をするね」
シュピナは楽しそうに、異国で聞いた話を続ける。
その内容はこの国から南の方向にある三つの海に囲まれた国での伝承だった。歴史の長い国で、多くの神話を残しているそうだ。
マルスは自分と同じヘマタイトの作用がどんなものか、興味深いと思い、耳を傾ける。
『その国の大工や、戦士達はヘマタイトを身につける風習があるんだ。身に着けると不思議と疲れが取れるらしい』
その話に、自分が生きた鎧と呼ばれていた時の事をマルスは思い出す。
『確かに鎧時代は纏えば疲れ知らずだと、戦場で重宝されていたなぁ……なるほど、それが《作用》なんだな?』
『そう!そういう影響がそれぞれ宝石にはあるんだって。面白いよねぇ』
マルスの反応にシュピナは満足げな声を出す。そこから旅で聞いた鉱石の影響についても語ってくれた。
シュピナは実際に旅した様々のな国で鉱石や宝石にまつわる話を聞いて回っていたそうだ。
『しかしお前さん、なんでそんな話を知りたいと思ったんだい?』
『そうだなぁ。最初はさ、もしかしたらオイラ以外の宝石少年にも会えるかもーって思ったんだけど
実際、そんなに簡単には会えなかったなぁ』
(自分と同じ魂を持つ宝石と会えるかもしれない、か。そんな事は考えたことも無かったな)
マルスも自分以外の宝石少年がいるのを知ったのはここに来てからだった。
『だけどさ新しい国に入る度に、そういう石の話を聞いて回ると面白い話が沢山聞けたんだよ』
それぞれの国で、様々な石の逸話や作用について。
シュピナはリーチアやマルスにわかりやすいように、話を進めてくれた。
『アメジストの杯で酒飲むと悪酔いしないとか、旅人にはターコイズを持たせると無事に帰ってくるとか。他にもいろんな話が聞けた。』
『だが、本当に、その作用が宝石に寄るものだったのはわかるのか?』
『正直そこら辺は解らない』
シュピナは悪戯な笑顔を浮かべた
『でもおもしろい事にそれらの作用はどこの国で話を聞いても、石の影響は大体共通する作用だったんだよね』
(ほう、国が違っても影響が変わらないなら、人間の勘違いとかではない、ということだな)
『作用……』
『どうした、リーチア?』
シュピナの話にリーチアは何かを考えている様子だったので、マルスは声を掛けた
『え、何?根拠とか言われてもオイラは困るよ……?聞いた話をまとめただけで……』
『クンツァイト、作用、何?』
『え?』
『え、うーんと、ごめん』
否定的意見を言われるのを悪後していたシュピナは
リーチアの質問に逃げる様に謝るシュピナ
『ごめん?』
『クンツァイトの作用はわかんないんだけど。オイラが言いたかったのは
オイラ達宝石少年はやっぱり一緒に居る主に影響されて磨かれるんだなぁ、って。
相棒とリーチアの会話を聞いてて、思ったんだよね。たった一日でも大分変わるというか』
なるほどな、とマルスは頷いた。
『リーチアが兄弟にどう作用するか、考えると、楽しみだな』
『そうだよねぇ、クンツァイトというかリーチアが相棒にどんな影響し合うのかオイラも楽しみ』
「影響し合う……」
リーチアがそう呟く。
その後すぐに唐突に、箱の中にうめき声が響いた
「うぅゔ……」
どうやら《あの夢》というものを、デアリスが見はじめてしまった様だ
『マルス。主人、大丈夫?』
『ああ、だが随分と魘されているな、兄弟にとって相当厭な夢なんだろう」
言葉に成らない声を漏らしているデアリス。その声を聞きリーチアは心配そうにしている
『そう言えば、寝る前に相棒、夢がどうちゃらって言ってたね」
『オイラ達に出来るのは侵入する位しか……」
『侵入?それは、なんだ?」
聞き馴染みの無い言葉にマルスはシュピナに質問をした
シュピナはマルスとリーチアより宝石少年としての生活が長い。
そのため宝石少年が出来る特殊な技をこの中で誰よりも知っている。
この侵入というモノも、きっとそのうちのひとつなのだろう
「侵入は物や動物、意識が薄れている人間の中に入る事だよ」
マルスは自分が昔生きた鎧だった状態と同じだと理解した。
(なるほど、あれが……侵入だったわけか)
「今なら夢の中の相棒に干渉出来ると思うんだよねぇー……」
「シュピナ、教えて。侵入、知りたい」
「……それじゃあ、話し合いはお開きにして、兄弟を助けるかい? リーチア」
マルスの問いかけにリーチアは大きく頷いた。
ベッドの上で魘されるデアリスの声はより一層大きくなっている
「苦しそうだな……兄弟」
「それじゃあリーチア、やってみようか」
宝石少年達はデアリスのいるベッドの方へ意識を向ける。
「まずは、対象を意識する、そこから中に入っていくイメージをして」
頷くリーチアの光が強くなる、しかしどこか力が籠りすぎている様だ。
リーチアはすぐに入りたいのに入れない状態に、焦っている様に見えた
「侵入……侵入」
「落ち着いて、力を抜け。それじゃあ自分の心体を縛っているのと同じだ。困難を感じた時ほど、靭やかさがモノを言う」
焦りを払うように、落ち着いた口調でマルスは諭す。それに続いてシュピナがリーチアに助言をした
「無理に入ろうとしない方がいい、マルスの言う通り。大丈夫だから焦らないで」
「どうすれば、いい?」
「人や動物に入る時は、まず息を合わせるのが、コツだよ」
「息を、合わせる」
シュピナは侵入のコツを優しくレクチャーする、
いつもは生意気な振る舞いの少年のようだが今は面倒見の良い頼れる先輩の顔をしている。
『大丈夫、相棒は寝ていて意識が薄れている、息さえ合えば問題無く中に入れる』
『中、入る、苦しくない?』
『大丈夫、ほら、相棒のリズムを受け入れて、奥まで潜って』
主の呼吸を感じ、鼓動に意識を溶かして、
リーチアは、デアリスの奥深くに沈む自分をイメージしているのだろう。
暫くすると星幽心核が薄赤色に輝き、糸のようになって箱を貫通してデアリスの方へと伸びていった
『なんだ、この光の糸は……」
『相棒と繋がったんだよ、これでもうイケそうだねぇ。』
シュピナの言葉に、リーチアは顔を上げた。その表情にはあまり出ていないがその瞳には、今までより強い意思を感じる。
『いってこい、リーチア兄弟を頼むぞ』
リーチアが大きく頷く、そして――
『……侵入』
その言葉を口にすると、淡赤色の光がビロードの箱のなかでより一層輝き、箱全体を強く照らしてから、消えた。
そこにはリーチアの本体であるクンツァイトの裸石が跡形もなく消えてしまっていた
『シュピナ、リーチアが……』
『大丈夫。リーチアが侵入に成功したんだよ』
『そうか、それならいいんだが……』
マルスが生きた鎧と言われて居た時は、
自分の嵌め込まれた鎧に侵入していた為に気付かなかったが、どうやら侵入すると
本体は消えるらしい。
リーチアが無事にデアリスの身体へと入れたと聞いて、マルスは安堵する。
(リーチア。兄弟をたのんだぞ)
マルスはこれから背中を預ける仲間を信じ、主を任せ、仲間の無事をただじっと待つことにした。
『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
____________________
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
『ディスポーザブル・キャスト』を面白いと思っていただけたら、ぜひ応援していただけると嬉しいです。
ページ下部の【★評価】や【ブックマーク】をしていただけると、今後の連載の大きな励みになります!
ご感想も大歓迎です。
「このキャラクターが気になる!」など、一言でもぜひ聞かせてください。
毎日更新していきますので、これからも『ディスポーザブル・キャスト』をよろしくお願いいたします。




