第11話 この場所での「役」
◯ルビアの街 街の教会に併設された孤児院の屋根裏 デアリスの部屋(1902年 4月)
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教会に併設された孤児院、
元々物置部屋だったであろう
屋根裏の部屋。
質素なベッドにデアリスが座り、
向かいには、マルスが座っている。
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夕飯を終えて、もう、夜。小さな子どもたちは消灯の時間だ。
子どもたちが眠る大部屋はランプが消され、暗くなっている。
屋根裏部屋を与えられているデアリスは、まだ、起きていた。《話し合い》のためだ。
デアリスはベッドに。マルスはその向かいのソファ……もとい、元、ソファみたいな四角いモノに座って話し合いをしている。
話し合いの内容は、宝石少年たちの《設定》についてだった。
夕飯時、シスターベルに声をかけられ、神父様にきちんと紹介したほうがいいと言われたのだ。
作り出した理由で大人たちも納得してくれた!と思い込んでいたデアリスだったが、ベルの指摘はもっともだった。
慌てて、《設定》をマルスと詰めることにしたのだ。
「さて。それでどうする」
マルスが言った。
「この国じゃ、もう傭兵ってのは、さほど多くないのだろう?」
マルスの知っている時代には、傭兵というのが多く居たらしい。
国から国へ渡り歩いている者も多く、マルスが今の姿のモデルにしたのも、そういう男たちだったらしい。
「そうだね。軍人っていうのはいるけど、マルスが言ってるみたいな傭兵っていうのは、あんまりいないような気がする」
マルスが戦場にいたころとは、戦争そのものがずいぶん変わっていた。着ている革鎧だってずいぶん古めかしい。
「そうだなあ」
マルスは腕を組んだ。経験豊富なオトナだとしても、その知識は随分昔のもの。
うーん、と考えこんだあと、マルスは言った。
「傭兵はいなくても、用心棒みたいなのはいるんだろ?」
「うーん、それならいると思う」
治安が悪いところでお金を扱ったりするときに、用心棒を雇うことがあるというのは聞いたことがあった。
「じゃあ、こういうのはどうだ」
そう言うと、マルスは指を立て、提案をしてくれた。
「俺は傭兵の家系に生まれた。今は傭兵っていう仕事は無いが、家の決まりで、子供のころから武術を叩き込まれた」
「うん」
デアリスは真剣にうなずく。
「若い頃、従軍した経験もある。その戦争が終わって——それで、この街に出稼ぎにやってきた」
「うん」
「そこで——。そうだな。お前さんとの出会いはどうしようか」
「そこなんだよな」
ふたりは悩んだ。
「オレのことを『マスター』って呼んでも自然じゃなきゃいけないんだろ?」
「兄弟って呼ばないこともできるけどな」
「うーん……」
デアリスは頭を抱え込んだ。すると、胸ポケットが淡いピンクに光った。
『当てはめれば、いい』
頭の中で声がした。
「え?」
『人の関係性、雛形、ある』
リーチアだった。リーチアは言葉を続ける。
『マルス、元の主人と、その娘。その関係、当てはめる』
デアリスはよくわからなかったが、マルスはぽん、と膝を叩いた。
「なるほど」
「どういうこと?」
「兄弟のことを頼まれた、そういう《設定》てことさ」
頭の上にハテナが浮かんでいるかのようなデアリスに、リーチアは解説を詳細化する。
『誰か、主人のこと、マルスに頼んだ。主人は自分の生まれ、知らない。だから、実子扱い、不自然。でも、先生に頼まれた、なら、意味、通る。』
「ああ、なるほど!誰かに、オレのことを頼むって言われたから、ってことか!」
「そう、例えば俺の武術の先生に『こいつを頼む』って言われた、ってことにするんだ」
頼まれる、か。
「でも、その先生とオレはどこで知り合ったんだ?守って貰えるほどの関係性って……」
「それもそうだな……なら、この教会に恩がある俺の武術の先生にここの孤児院の子に何かあったら頼むと言われた、と言うのはどうだい?」
「なるほど?」
「そして、旅から旅で、の街に来た俺が、財布を盗まれて困ったところを兄弟に助けられ、話を聞いたらこの孤児院の人間だった」
マルスの提案を聞いて行くと、少しずつ、デアリスにもイメージが湧いてくる
(なるほど。これなら、無くは無いかも?)
「それで、独立を考えてたオレと一緒に仕事する事になった、と!」
「そうだな。俺は、代々傭兵の家系で、武術を習った先生に着いていたことにすれば、いいだろう」
その話を聞きながら、リーチアが呟く。
『現実的、辻褄、合う』
「いい感じじゃないか」
「それで、仕えているから『マスター』ってこと?」
「ああ、悪くはないだろう?」
マルスはうなずいた。デアリスはむううん、と悩んだ。
「頼まれた子どものほうがさ、マスター、って、変じゃないかなぁ」
「そこはリーチアの言う通り、現実を踏襲したほうがいい」
「そういうもんか?」
ピンとこなくて、デアリスは首を傾げる
「俺は、『守れと言われたものに仕えろ』って、ずーっと言われて過ごしてきた。それなら、嘘をついたり演じたりしなくても、出来る」
「マルスがオレの、ナイトてこと?」
「騎士道精神ってことだ。俺はそんな高貴なものじゃないがな」
マルスは笑った。
「仕事を手伝うってことにしちゃったけど」
「いいじゃないか。何も守るというのは、代わりに戦うだけじゃないさ。生きる知識をつけさせるのも、守るってことだろう」
それは何となくわかる気がした。孤児院でも、幼い子に早くから仕事をさせる。
小さいからかわいそうだなんて言う人は居ない。
生きる力をつけさせることが、その子の為だと思うからみんなそうするのだ。
「俺は用心棒とか便利屋みたいな仕事をして生きてきた。そんで、師匠からお前さんにいろいろ教えてやってくれ、生きる力をつけさせてやってくれ、と言われた。」
指折り数えながら説明する。
「だから、仕事を教えながら街に出たり、困りごとを解決したりする。何にもおかしくないだろ」
「そう言われれば、そんなような気がしてきたな」
「俺は気に入ったよ、ここ」
マルスが言った。
「ここは女性や子供、弱い者を守るところなんだろ?」
「うん」
「そこの用心棒だったら、俺の昔のマスターも、きっと喜んでくれる」
マルスは、深く息を吐いた。
デアリスには、マルスの気持ちが百パーセント分かるわけでは、当然なかった。
けれど、満足そうなマルスを見ていると、自分まで嬉しいような気がした。
「じゃあ、その『設定』っての、他の二人についても考えなきゃいけないよな」
「そうだな」
「ま、それは明日以降でいいんじゃないかい」
マルスはそう言って笑った。
「それに、兄弟、頭使うの苦手だろう」
図星だった。
「よく分かってるな。オレのこと」
「戦場に来る新兵なんて、みんなこんな感じだったんでな」
マルスはデアリスの頭を軽く叩いた。
「さ、もう寝ろ。俺がここにいたら目立つ。このベッドにふたりねるのは、いくらなんでも無理だろ」
「そうだね」
「マルス、お疲れ様。」
礼を伝えてから取り外しとつぶやくと ころりと、小さな石が手のひらに残る。
デアリスは小箱に、それを大切に入れた。
ライラックピンクの石と、ラズベリー色にきらきらと輝く石も、その中に眠っている。
心なしか、黒い石の輝きが増しているような気がした。
「これが、磨かれたってことなのか?」
『初仕事は上出来だな、兄弟』
食堂やシスターベルとのやりとりはヒヤヒヤしたけれど、結果オーライだった。設定もちゃんと詰められたし。
――リーチアとシュピナの分まで考えるのは、骨がおれそうだけど――。そう思っていると
『主人、リーチアとシュピナの設定、夜、考えておく』
「いいのか?」
ありがたい申し出だった。
『論理的整合性、取る、主人より、多分得意。』
「うっ……」
主人のイゲンというものなどはない。むしろ尻に敷かれているような気すらする。
『まぁ、なんかあってもフォローするから安心してくれよなぁー』
『サポート、する。』
リーチアとシュピナの言葉に、デアリスは不満をこぼす
「なんだよその言い方!俺、仮にもマスターなんだろう?」
頬をふくらませる青年に、マルスがまあまあ、と声をかける。
『兄弟は磨けば光るタイプだ、これからに期待してるぞ』
「おい、オレがお前達を磨くんだろう?!逆になってるじゃないかよ」
デアリスのリアクションに宝石少年それぞれの笑い声が響く。
――宝石少年を磨く。
自分が選ばれた理由はわからないけれど、シュピナとリーチアも磨けばきっと輝きが強くなるはずだ。
三人が言ってくれたみたいに、自分も磨けば光るタイプならば、恥ずかしくないように自分もいっしょに磨いていこう。
これからは、シスターや孤児院で働く人達から依頼を受ける事になる、どんな依頼が来るだろうか
宝石少年達と自分をどう磨くべきか、想像しながらデアリスは眠りに落ちた。
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『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
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