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第4話 ヴァルミタール家の裏稼業


◯ヴァルミタール家 屋敷二階 当主グレゴールの部屋 (1902年 3月)



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アレクシスと執事ヨハンが、

父、グレゴールの部屋を訪れる。

中央には仕事机と書類だな。

父は大きな椅子に、

もたれるように腰掛けている。

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 旦那様――アレクシスの父、グレゴール・ヴァルミタールの部屋に行くと、父が待っていた


「来たな、アレクシス」

「はい。お父様。」

「正装が似合っている。もう大人だな。」


 そう言って笑う父の笑みには、覇気が無い。胸をやられているのだ。

 父はまだ四十を少しすぎたばかり。まだ若いはずなのだが、不運なことに肺の病にかかってしまった。

 肺病があれば他人への接触は制限することが推奨される。必然的に、対外交渉などは難しくなる。

 そのため、少し早く、アレクシスが家を継ぐ準備をはじめることとなったのだ。


「旦那様、お加減は」

「大丈夫だ、ヨハン。なあに、家の中で仕事するぶんには、さほど苦労はないんだ。運動したり大声を出したりするのは、少し骨が折れるがね。」


 グレゴールは椅子から身を乗り出すと、アレクシスのほうをまっすぐ見た。


「アレクシス。知っての通り、私は肺の病だと言われた。」


 アレクシスは無言でうなずく。グレゴールは穏やかに続けた。


「だが、この病は幸い、数年かけてゆっくりと進行するらしい。――運が良ければ、治ることもあるそうだ」

「もし、治らなければ――?」


 不安にかられて、父に問う。結論など出ないとわかっているのに。


「神のみぞ知る、だな。医者いわく、だいたい3分の1が死に、3分の1がこの病と一生付き合う羽目になり――、3分の1が治る、とのことだ。」

「治療法はあるのですか?」

「これといった薬なぞは無いそうだ。良い空気のところで休めとか、栄養のあるものを食えとかの助言はあったが、な。あとはお前も知っての通りだ。人との接触をできるだけ避けること。」


 アレクシスもこの病の特徴は把握していた。そう、


「肺病は、伝染る――。」


 父はふう、と息を吐きながらうなずく。


「確証はないが、そういう肺病もあるので、気をつけるように、とのことだ。なので私との接触も最小限とする。連絡役にはこのヨハンを使う。」


 執事――ヴァルミタール家に長く努める、ヨハン・クラウスヴァルトが、目を伏せ応える。


「――承知しております。」

「お父様、僕は何をすれば良いでしょうか。」

「お前には、外とのやり取り全般を任せたい。店とのやり取りや、商品の売れ行きを見ること、私の手紙を運ぶこと――。後、倉庫の在庫確認やらを任せたい。取引先への挨拶も、お前が出向くことになる。」


 通常なら家の中の仕事を覚えてから外の仕事に進むものだが、アレクシスの場合は逆だった。


「――わ、わかりましたっ……!」

「ははは、そんなに身構えなくとも良い。大口の取引などは、私が手紙で交渉内容をきちんと書く。お前はそれを理解し、きちんと伝えれば良い。なあに、できるさ、私だって18から跡継ぎ修行に入った。たかが1年の違いだ。」


 笑顔を見せる父に少しほっとしたものの、その直後に咳き込む様子は痛々しい。ヨハンが水を手渡す。


「少しずつ、当主の仕事を覚えてゆけばいい。アレクシス。頼んだぞ」

「わかりました!」


 今度は自信を持って答えることができた。努力は嫌いなほうじゃない。少しずつなら、自分でも頑張ることができそうだった。

 アレクシスは、一礼した。跡継ぎとしてなすべきことは、語られた、そう思ったのだ。


 すると父が突然、低い声で言った。


「――と、ここまでが表向きの話だ。」


(表向き――?)


「表向き、とは、どういうことですか。」

「ヴァルミタール家には、もうひとつ、商いごとがあるのです。」


(もうひとつの、商売――?)


 それはアレクシスにとっても、初耳のことだった。


「さて、アレクシス。ヴァルミタール家の商品のコンセプトは?」


 まるで試験をするかのように、父が問う。アレクシスは慌てて答えた。


「日常に、少しの夢と彩りを です。」

「そう。夢だ。《夢》を売る。それがこのヴァルミタール家の、隠れた商いなのだよ。」


(夢が商いになるというのは、どういうことなのだろう)


「――お前は、《地下室》に出入りしたことはあるか?」

「あります。ワインや穀物を置いている倉庫のことですよね?」


 掃除用具に、ワインに小麦。キッチンからつながる地下室のことは当然知っていた。


「いや、そこではない。その《奥》だ。」

「奥……?」


 ちゃりん、と、音がした。父の手にあったのは、古びた鍵だった。


「この鍵は地下室の奥――《石室》の鍵だ。ヨハン、行くぞ。」

「はい。旦那様。」


 ヨハンの手を少しだけ借りて、グレゴールは立ち上がる。


「アレクシス、ついてこい。」

「は、はい……!」


(一体、何があるんだ、その《石室》とやらに……)


 そして、三人は地下室へと向かった。



『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』

原案:神田明子

作:西瓜すいか・差異等たかひ子

企画・制作:Hisshigumi Project


※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。


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