第6話 寄せ集めの半貴石
◯孤児院 デアリスの部屋 昼間(1902年4月)
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デアリスの部屋で、
ラズベリー色の三つ編みの少年が
髪を揺らしながら
ニコニコ笑っている。
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「あらためて、よろしくな、シュピナ」
シュピナは一瞬、少し照れたような表情を見せたあと、
「よろしく、デアリス。オイラの相棒!」
そう言って、シュピナはぱあっと顔を明るくした。
仲良くなれて嬉しい、そんな顔だ。シュピナは隣に座り、ベッドの上で足をパタパタさせながら言った。
「あ、相棒。改めて身分とか気にすること無いからなぁ!
オイラ達半貴石は他の宝石少年と比べたらそれこそ庶民みたいな感じだし」
「え?」
どうやらシュピナは、デアリスの自分が孤児である発言を聞いて、気を使ってくれた様だ。
しかし、デアリスは言葉の意味が、ピンと来ていなかった。
(半貴石……?庶民みたいなものって、なんか、位みたいなもんなのか?)
「なぁ、その半貴石ってのはなんなんだ?」
その質問にシュピナは、「あ、そうかわからないよね」という表情をする。
そして、立ち上がり、身振り手振りをつけてデアリスに向けて説明をはじめた。
「半貴石ってのは、貴石より硬度が低くて、宝飾価値があまりない宝石のこと」
「へえ、宝石にも、貴族とか庶民みたいな区別があるんだな」
デアリスは自分達人間に置き換えて考えてみる。
(……え?って事は、三人の他にも宝石少年が居るって事か)
「それで、オイラ達宝石少年にも普通の宝石と一緒で貴石と半貴石がある、具体的には……」
シュピナは宝石少年達のランクについて、説明を続けた
「宝石としても貴重で硬度が高い貴石は基本的には持ち主が変わる事は殆ど無い。
逆に半貴石は宝石としての取引では安価なため色々な人間の手に渡る事が多いんだよねぇ―。あとは硬度の関係で割れやすかったり、ほかの鉱石と混ざりやすい、かな」
宝石少年は人の役に立たつ事で磨かれる。魂を持った宝石。
そのランクには、硬度や宝石としての価値も影響があるとのことだった。
「でも、半貴石だからこその、いいところもある!」
シュピナは説明を続けた。
半貴石は、硬度が低い、そのため比較的磨きやすく、主の影響を受けやすい。
つまり、磨く人間によっては貴石達より早く星幽心核を集めやすい、とのことだ。
「期待してるからなぁー、相棒!」
シュピナがデアリスの背中をバンと叩く。距離感が近い。第一印象よりもずいぶんと人懐っこい宝石のようだ。
「何が言いたいかっていうとさ。オイラ達は別々の場所から拾われた半貴石……つまり寄せ集めってこと」
どうということは無いかのようにシュピナは説明して、宝石だから親も居ないし と付け加えた。
――これは、彼なりの優しさなのだろう。
「実際、マルスとリーチアにはこの箱の中で初めて会ったんだぁ」
「リーチア……?」
「ああ、そのライラックピンクの宝石少年のこと。
関わった日は浅いけど、ふたりともいいヤツらだよ。オイラが保証する!」
あまりに自信たっぷりに言うので、デアリスは納得せざる負えなくて、頷いてしまう。
この少年――シュピナには、圧倒されてばかりだ。
それから、宝石少年達についてシュピナは色々と説明をしてくれた。時折マルスも補足してくれる。
ふたりの話をまとめると、三人も全く違う場所で使われていた。
シュピナはサーカスで世界を巡り、マルスは革鎧の装飾として戦場へ、そしてライラックピンクの宝石リーチアは貴族の家庭教師のブローチとして使われていたらしい。
そして少年挿入をリーチアとマルスはまだ数える位しか経験していないとのことだ。
「そういえば、まだ声すら聞いてないな、……その、リーチア?って奴」
「人の姿になれば喋るんじゃないかなぁー?すこーしテンポ感が独特だけど、慣れると面白い奴だよ」
「テンポ感が…独特?」
「ま、説明するより、会ったほうが早いからさ。
兎に角、オイラを取り外しして、リーチアを少年挿入しなって!」
自分を少年挿入しろ、と言った時と同様にシュピナはデアリスを急かす。
急かされるままシュピナに触れ取り外しと呟く――
ラズベリーカラーの光が部屋を包み込んだかと思うと次の瞬間、手のひらには鋳造心臓とスピネルが転がっている。
シュピナを箱に戻し、ライラックピンクの宝石を鋳造心臓に嵌め込む。
しっとりと馴染むように、石が台座に嵌まった。
「少年挿入」
教えられた言葉を再び唱えると、ライラックピンクの光りがふわりと拡がった。
他のふたりと同様に、鋳造心臓を中心として結晶が育ってゆく。
ライラックピンクの結晶は板状の結晶が縦に美しく重なるように体積を広げた。
(3人共、少年挿入の仕方が違うんだなぁ……)
それぞれの宝石は結晶から人間の姿になる時に、違う特徴があることがわかった。
総じて不可思議な印象だが、その内容に彼らの個性を感じる。
パキリ、パキン―
重なり続けた結晶は、ある大きさまで来ると今度は砕けはじめた。
劈開が割れるように砕けてゆく。板状の結晶が一枚、また一枚と剥がれ落ち、まるで、布をいちまいずつ取り去っていくようだ。
そうして、最後の欠片が剥がれ落ちたとき、中から中性的で線の細い青年が現れた。
青年は、閉じていた目をゆっくりと開ける。
「あなたが主人?」
少し眠そうな目をして、リーチアが首を傾げる。
「一応、そうなるかな。オレはデアリス、よろしくリーチア」
挨拶をすると、リーチアは再び首を傾げる。
少しの沈黙が流れ、デアリスが気まずさを感じ始めた頃に
リーチアは何かを思い出した様に、小さくお辞儀をしてから、挨拶をはじめた
「デアリス……リーチア、クンツァイトの、宝石少年」
独特なテンポ感――シュピナが言っていたのはこの事か、とデアリスは激しく納得する。
そんな事を目を伏せながら考えてから、再びリーチアを見ると、自分の手を眺めて不思議そうに首を傾げていた。
「手――怪我でもしたのか?」
デアリスが心配して問いかけると、静かな声でリーチアは答えた。
「動ける、事……興味深い」
(そうか、リーチアは少年挿入をあんまりしたこと無いって、シュピナが言ってたもんな)
「これから時々リーチアをこうやって呼び出して、何かお願いするかもだけど……大丈夫かな?」
デアリスは機嫌を伺うように問いかけた。
リーチアの見た目と言葉のテンポがそうさせるのか。
何故か、初対面の女の子を気にかけるような口調になってしまった。
そして、マルスとシュピナの時には無かった心の距離の様なものをどこかで感じてしまっていた。
「質問意図、不明。……宝石少年、その為、ここに来た」
そう言うとリーチアが右手を前に出した。デアリスは意外な行動に一瞬戸惑う、その様子にリーチアは再び首を傾げた
「人、握手で親交、深める、……違った?」
その手を慌てて取り、間違っていないと伝える。
『リーチアはあまり磨かれてないから、純粋な宝石に近いんだと思う。その所為か感情表現が難しいみたいなんだよなぁ。
でも、磨けば少しづつ変わると思う』
デアリス達のやり取りを見て、心配だったのかシュピナが補足をしてくれた。
それを聞いて、デアリスはリーチアの今までの態度には、悪意は一切無かったのだと理解した。
他のふたりが感情表現に違和感が無かった分、リーチアに対して距離を感じていたけれど、この態度は人間とのやり取りに不慣れだからだったのだ。
宝石少年も人間の様に成長するなら、子ども達と接するのとそう変わらないのかもしれない。
「じゃあ、オレが磨くと成長して変わっていくんだな?」
『そう言う事!』
シュピナが断定口調で言う。
「で、その、なんだ、《いいことをして、磨く》って話だけど、具体的にはどうすれば良いんだ?盗賊でも捕まえればいいのか?それとも、なんかもっと悪魔的なモノを退治する、とか……?」
デアリスなりに、真剣な問いかけだった。
不思議な力を得た一般人は、たいてい、《世界を変える》とか《国を救う》とか、そういうことに従事するものだ。
少なくとも、デアリスが聞いたり読んだりしたモノガタリでは、そうなっていた。
(――教会の仕事もあるから、オレがそういうのやるなら、夜かな。いやだな、夜は眠いんだけど――)
思考回路は凡人のそれだが、とにかくマスター的なものになってしまったのだからしょうがない。
やるならちゃんとやらないとな、などと考えていると――
「『『…………』』」
宝石少年たちから、沈黙が返ってきた。自分が見当外れな事を言ったのだと、流れる空気でわかってしまう。
「……なんだよ!例え話だろ!」
『ねぇ、リーチア、相棒、もしかして、アホなんじゃない?』
「もしそうなら、興味深い、アホ?」
「おい、聞こえてるからな!」
デアリスの頭にマルスとシュピナの笑い声が木霊する。気恥ずかしさで頬が熱くなる。
(宝石が人の姿になったのを目撃した後だぞ、少しは幻想的な妄想や期待をするのは、健康な青少年として当たり前だろうが)
『そんな正義の味方みたいな大きな事はしなくていい。もっと身近な手助けで十分だ』
マルスが、デアリスを諭す様に伝える。
「身近な手助け……?」
デアリスは少し考える。そして、それならばと質問をした
「例えばこの孤児院の雑用とかでもいいのか?」
『ああ、そういうのでいい』
「雑用って、屋根の修理とか、水くみとか、掃除とかだけど?」
『いいじゃないか、どれも人様のお役に立つ仕事だ!』
マルスのお墨付きだ。『うんうん』と、シュピナが頷く声も、かすかに頭の中に聞こえてくる。
リーチアは、デアリスの眼の前に立って、表情を動かさない。あまりピンときていない様子だ。
(力仕事に役立ちそうなのは、やっぱり――)
「そういう仕事でいいなら、マルスから磨こうかな」
『え、オイラじゃ駄目かな、相棒』
デアリスのつぶやきに、シュピナが不満げに叫んだ。デアリスは自分の考えを伝える。
「孤児院はシスターをはじめ女性が多い。だから力仕事を任せる男手が必要になんだ、だから適任はマルスだと思う」
「合理的、賛同」
リーチアが真っ先に賛成の意を示した。続いてマルスも同意する。
『俺も問題ない……どうだ?シュピナ』
頭の中で小さなため息が聞こえ、デアリスの頭の中にシュピナの声が響く
『わかった。今回はマルスに譲るよ、だけど相棒、次はオイラなぁー』
「おう、わかった」
『やっぱり、オイラは身体がある方が楽しいから。出来そうな仕事があれば、すぐに呼んでくれよな!』
わかったわかった、とデアリスがなだめるとシュピナは、『そうと決まれば、はやく入れ替わったほうがいいな!』と、リーチアを取り外しするように促した。
「……主人、取り外し」
リーチアは、人の姿になることにさほどこだわりはないようだった。デアリスはリーチアの手をとり、「取り外し」と唱えた。
ころん、と、ライラックピンクの石と、鋳造心臓が手のひらに戻ってくる。
デアリスは石の姿になったリーチアをシュピナと一緒にシャツの胸ポケットに入れた。そしてあらためて、鋳造心臓にマルスをセットした。
「よし、マルス!少年挿入」
鋳造心臓からマグマが湧き出て、次第に金属光沢のある黒い結晶に変わって行く。
そして異国の神を象った彫刻の様に強靭で逞しい腕がその鉱石の殻を突き破って、革鎧を纏った褐色黒髪のマルスがデアリスの前に再び現れた。
「それじゃあ、兄弟、改めてよろしく頼む」
デアリスは、孤児院で手伝えそうな事をマルスに説明した。
重いものを運ぶこと、建物の修理、高所での掃除など、どれもこれも、ごくごくフツーの、生活の中の仕事だ。
そんな、目立つところのない――端的に言えばつまらない仕事なのに、マルスは仕事の話を興味深そうに聞いていた。
「面白いか?この話」
「あぁ。面白いぞ」
「ふうん、そうか……」
デアリスは不思議に思った。マルスは革鎧の装飾だった、と聞いたから、戦いとかのほうが好きなのかな、と思っていたが、そうでもないようだ。
大人の男が自分の話を真剣に聞いてくれることが嬉しくて、デアリスもつい、説明に熱が入る。
孤児院には子どもたちが二十人くらいいるとか、シスターも同じくらいいるとか、街の人が先生として技能を教えてくれる日があるとか、そんなことを一生懸命喋った。
思えば、年上の同性はこの孤児院にはそう多くない。
会話出来たとしても教会の手伝いで来る男達と年が離れすぎている神父くらいだった。
孤児院にいる子どもは、ある程度大きくなれば里子として引き取られたり、教会を出て独立することが多い。
女性はシスターになり教会に残ることも多い。男はたいてい、職能を身につけて、街で独立して暮らす。
デアリスももうすぐ出ていく年齢なのだから、年上がいないのは当たり前といえば当たり前だった。
(だけど……なんだか悪くないな。頼ってもいい存在がいてくれるのって……)
孤児院の仕事説明の途中、昼食を告げる鐘の音が響いた。
その音に反応してか、デアリスの腹部からくぅ~と音が鳴った。
「中断だな兄弟腹が減っては戦は出来ぬ、だろう?」
マルスの笑いながらの提案に同意をした。
「この格好は、目立つか」
そう言うとマルスを光が包み、革鎧の姿からデアリスが着ている様な現代風の装いになる。
「宝石少年、そんなことも出来るんだな」
「ああ、シュピナに教わったんだ。それじゃあ、行こうか兄弟」
デアリスはマルスとふたり、食堂へと向った。
『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
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