第5話 元気な赤いチビッコ
◯孤児院 デアリスの部屋 昼間(1902年4月)
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青年の手には赤い石と
鋳造心臓
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少年挿入、という言葉を言った瞬間、ふたたび、部屋は光に包まれた。
今度はマグマのような光ではなく、真っ赤な光。
鋳造心臓が、赤く光り、どんどん光を強めていく。
みるみるうちに、複数の八面体の結晶に覆われた。結晶はぐんぐんと伸びて、やがて一つの大きな八面体となる。
ぴしり、と音がして、八面体の頂点にヒビが入る。
そこから、大きなザクロの実を開くように割れ、そこから罅が全体に広がって、砕ける。
砕けた結晶からはラズベリーの様な深い赤色の長い髪を三つ編みでまとめた小柄な少年があらわれた。
「おーっ。やっぱ身体があるっていいなぁー」
宝石から人間の姿に変わった少年は、デアリスを他所に肉体があることを喜んではしゃいでいる。
準備運動の様に、身体を大きく伸ばし、そのあと柔軟をしている。宝石だったとは思えない柔軟な身体だ。
(さっきの奴と印象が大分違うな、出て来方も見た目も……)
そんな事を思っていたら、少年がくるっと回りデアリスの方に顔を向けたかと思うと――
手紙をひったくってきた。
「おい!なにんすんだよ」
「さて、とぉー……耳の穴かっぽじってよく聞きなよぉ」
とデアリスの顔をビシッと指刺すと身振り手振りも交えながら手紙の内容を説明をはじめた。
「まず!オイラ達は宝石少年っていう 意思を持つ成長する宝石で」
「成長する、宝石?」
「そう、そして成長するには、人間と関わる必要があるわけ。その為に鋳造心臓を使って人間の姿になって、人間の役に立って星幽心核、つまり……人間で言うと……あ、魂!魂みたいなのを磨く必要があるわけ!」
「た、たましい?」
「そう!それで!それを繰り返すと相棒に良いことがある…って感じ。わかった?」
「い、良いことって……なんだ?!」
彼のすごい勢いでの説明は、文字面よりはデアリスに伝わった、
そして、デアリス青年は《良いこと》という言葉に興味を惹かれ、気付けば期待を込めた声で少年に質問をしていた。
少年は、その問いに、気まずい表情で言葉を返してきた。
「あー、ごめん、それはオイラわかんないやぁー」
「おい!そこがじゅうようなんじゃあ、ないか!」
「うるさいな!いつかわかるんだからいいだろぉ」
言い争いが始まろうとしたところに、頭の中でマルスの咳払いが響く。
『ふたりとも落ち着け……シュピナ、自己紹介ぐらいしたらどうなんだ?』
「うっ、そうだったね。よぉし、そんじゃあ改めて!」
マルスに注意され、シュピナと呼ばれた少年は、気合を入れ直したかと思うと、ピエロの様に大袈裟にお辞儀をしてみせた。
「お初にお目にかかります相棒!オイラの名はシュピナ、赤いスピネルの宝石少年でございます!」
シュピナは名乗りの直後くるりと宙返りをし、デアリスの眼の前へ移動した。
「え、びっくりしたぁ」
そのままお辞儀をする、小生意気な笑顔がデアリスの目と鼻の先にある。
「よろしくなぁー、相棒!」
挨拶にしては、大々的な曲芸に、デアリスは思わず拍手をしてしまう。
(なんだか毒気を抜かれちまったなぁ)
呆気に取られながらも、デアリスは眼の前の少年から差し出された手を取る。
「オレはデアリス、よろしくシュピナ」
改めてシュピナを見てみるとずいぶんと幼く見えた。
十代前半ぐらいだろうか、それを考慮すると今までの偉そうな振る舞いもデアリスには微笑ましいと思えた。
孤児院の弟分たちとそんなにかわらないからだ。
「なんか、思ったよりチビッ子なんだな、シュピナ」
頭をガシガシ撫でると、笑顔だったシュピナの顔が引きつった。
「オイラはな、お前なんかよりも数倍、いや数十倍生きてるってのぉ!!!」
どうやら、地雷を踏んだ様だ、ごまかし笑いをしながら悪い悪いと両肩を掴む。
シュピナをなだめながら話の方向を変えようとデアリスは箱を受け取った時から引っかかっていた疑問を口にする。
「というか、今更だけどさ。お前たちを受け取るの、本当にオレで合ってるのか?」
「はぁ?どういう意味だよぉ、それ」
「いや、オレただの孤児だし……宝石とか、マスター、って呼ばれるとか絶対に縁が無いからさ」
自分を卑下する様な言い方になってしまったが、事実だった。
こんなどこの馬の骨ともわからない孤児に、宝石という贈り物は身に余る。
それがまして人の形になる宝石で、人助けをすることで宝石を磨けなんて言われても、現実離れしすぎていて、混乱する。
その言葉に、シュピナはなるほどね、という表情を返してくる。
「あぁ、何を気にしてるのかはわかったけど、なーんも問題ない」
「え?」
「だって、オイラは相棒を助ける様に頼まれてるからなぁ。それに頼んできたそいつも昔なじみで信用できる。だから、デアリスはオイラ達の相棒で間違いないわけ!」
自信満々なシュピナの発言に再び押される。どうやらシュピナは、直接デアリスを助ける様に言われているのだ。
(頼んできたそいつが、昔なじみ――)
シュピナの発言を反芻する。
(――って、ことは)
「シュピナは知ってるのか?この手紙を書いた人のこと」
「あぁ、うん。むかーしの知り合いさ」
「どんな関係なんだ」
「え?オイラと、そいつ?」
「そうじゃなくて――」
デアリスは言い淀んだ。自分の出自はわからない。自分の居場所はここなのだから、それでいい。そう思ってきたけれど。
(――やっぱり、知りたい)
拭い去れない欲求だった。デアリスは意を決したように、言葉を繋いだ。
「オレと、その人の関係」
シュピナは「ああ!」と明るく相槌をうった。デアリスは続く言葉を聞き逃すまいと身を固くした。返ってきた答えは――
「ごめん、ソレは知らないや!」
「知 ら な い の か よ!!」
シュピナはごめーん!と手を合わせて謝る。本当に何も知らないと顔に書いてあった。
デアリスは、ハァ……とため息をつく。その表情を見てシュピナは眉根を寄せた。
「……悪かったよ。オイラ、本当に知らなくて」
心から申し訳なさそうな表情のシュピナ。年下にこんな表情をさせるのはデアリスの望むところではない。
――いや、年下じゃないのかもしれないけど。とにかく、知らないものは知らないのだ。しょうがない。
「いいよ」と言って頭をなでると、シュピナは「ごめんよ……」とつぶやいた。
「知らねえもんはしょうがないさ。でも、そうなってくると――オレがお前達宝石少年のマスターである理由って、無い?」
「うーん、多分だけど、相棒にはオイラ達を磨く才能があるから、かな」
「才能?」
「思い出してみなよ。なんも知らないのに、マルスを少年挿入したり、オイラの声が聞こえたりしたろぉ?」
(それが、才能?)
デアリスはまだ釈然としなかった、悶々としていると、その背中をシュピナがバシバシと叩いてくる
「まぁ、気になることがあったら一番詳しいオイラに頼っていいから、なんでも聞いてくれよなぁ、相棒!」
「詳しいって……こんな、ちびっこい癖に?まだ十二、三歳くらいだろう?」
「だからぁ!これでも!アイツらの中で一番先輩だってぇの!」
むっとして腕を組みシュピナが口を尖らせる、仕草はまさに十代の少年だ。
怒りを鎮める為かシュピナは再びふぅとため息を吐く。これは彼の癖なのだろう。
「一番先輩なのは本当だからなぁ。……ちなみに、この鋳造心臓もオイラのモノをみんなに貸してるんだ」
シュピナは自分の左胸を右手の親指で指した。鋳造心臓は人間で言う心臓なのだろう
「そうして、今、オイラの所有者は、相棒なんだよ。」
シュピナが、デアリスのほうをまっすぐ向いて言う。
「だからさ、オイラも、ほかのふたりも。相棒の好きに使って良いってわけ。わかった?」
「お、おう」
勢いに押され、思わず了解してしまう。なんだか言いくるめられてしまったような気もする
だけれど、この宝石少年達、癖はあれど悪い奴らでは無いのはなんとなくわかる。
それに磨いた先にある【良い事】に興味が無いと言ったら嘘だ。
何よりも――
(――もしかしたら。自分の生まれがわかるかもしれない)
シュピナの昔馴染みだというその人に会えば、何か分かるのかもしれない。
デアリスは再び手紙を手にとってみた。すると、手紙の裏に、走り書きがあることに気づく
◇ ◇ ◇
――この宝石少年達は|貴方自身に繋がっている《・・・・・・・・・・・》
◇ ◇ ◇
(――オレ自身に繋がっている――)
デアリスは目を見開いた。宝石を磨く。
何をどうしたらいいかは依然としてよくわからないが、悩むのは性に合わない。
デアリスの出した回答は【考えるより、やってみるか】だった。
「まぁ、これも神様から頂いた縁だ、兎に角。一緒に人助けすりゃあ万事解決だよな!」
「そうこなくっちゃね!」
デアリスの決断に、子どものような笑顔で見た目相応の喜び方をするシュピナ。
ツンケンはしているが、根はいい奴だと言うのがわかる。
――宝石少年達を磨けば、いつか……。
デアリスの中にある、忘れようとしていた《夢)が動き出した――
『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
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