第2話 孤児の青年
◯ルビアの街 街の教会に併設された孤児院の一室 デアリスの部屋(1902年 4月)
|教会に併設された孤児院、
元々物置部屋だったであろう屋根裏の部屋。
|質素なベッドに青年が横になっている。
|人一人がぎりぎり通れる位の大きさの窓から日が差し込む。
|眩しいのか片腕で両目を覆う青年の首筋には、火傷の痕が見えている。
孤児たちに慕われる青年――デアリスは、与えられた仕事を終えたあと、自室で休んでいた。
教会の整備は孤児たちの仕事だ。中でもデアリスはもう十七歳。
力仕事はもちろん、孤児たちの先生役のようなことも担っていた。
水くみに、屋根の修理。小さな子たちに読み書きを教え、荷物運びを終えた後、掃除の指示を出し――、
やっと自室にたどり着いたあと、昼寝をしていた。ご飯ができるまでの間の昼寝は、彼の日課だった。そして――、目を閉じるたびに見る夢もまた、彼の日課のひとつだった。
(――ああ、またこの夢か)
デアリスは燃え盛る大火の中で逃げ惑う人に飲まれながらも、流れに逆らって手を伸ばしている
何度も見た夢の光景。
最後には必ず、何処かで聞いた事がある懐かしい声が聞こえる……
「──────!」
その声はいつも、轟々と鳴る炎の音にかき消されてしまう――。
「あんちゃん!……デアリスあんちゃん!!」
幼い声で現実にゆり戻されたデアリスは勢いよく飛び起きた。
それに驚き尻もちをつく幼いオレア。先程、箱を受け取った少年だ。
「わ、わりぃオレア、大丈夫か!」
「大丈夫、このくらいへっちゃら。」
鼻をこすりながら笑うオレアを助け起こし、尻についたほこりを払う。
「昼飯、もうできたのか?」
「ううん、そうじゃなくて」
起こしにきてくれたのかと思ったが、そうではないらしい。デアリスは眠気をふりはらうように、大きく伸びをした。
「なら、なんの用なんだ」
あくび混じりにデアリスが問うと、オレアは肩掛けのカバンから、何かを取り出した。
それはビロードの布で覆われた高級そうな箱だ。
オレアは、はい、と言って、デアリスにその箱を渡す。片手に収まるような小さな箱だ。振るとかすかに音がする。
「なんだよ、これ」
「これ、なんか知らない男のひとが あんちゃんにって」
「オレに?」
コクリ、とオレアは首を縦に振った。
「あんちゃんだけに言え、って。他のみんなには、秘密だって」
「大丈夫か?」
「だいじょうぶ、って?」
きょとん、とするオレア。知らない人からモノをもらってはいけない、と普段から教えているのにナァ……
と、デアリスは内心ため息をついた。
「怪しい人かもしれないだろ。どんな人だったんだ」
「えーと、黒いマントでぇ、大きくてぇ」
「顔は」
「わかんなかった!」
「――怪しいだろ!どう考えても!」
「さあ、でも、イヤな感じはしなかったよ。それに、あんちゃんのこと、知ってたし!」
デアリスはふたたび、ハァ、とため息をつく。
(まぁ、実際危ない目にはあってないみたいだし、いいか――)
デアリスは、大きくため息をついて、オレアに釘を刺す。
「次から、オレを知っていても知らない人からモノを貰っちゃだめだぞ」
「わかった!」
釘をさしたつもりだったが、オレアはわかっていてかそうでないのか、元気の良い返事が返ってくる。
(この会話はきっと繰り返されるんだろうな……そんな予感がする)
まあ、それはそれ。可愛い弟分が本当に可愛いのでいいのだ。可愛いのだから。
「とりあえず、箱、ありがとな」
そう伝えてデアリスはオレアの頭をなでた。
頭を撫でられ、くすぐったそうにしながら、オレアは「えへへ」と屈託無く笑う。
「それじゃ、オレ、掃除のつづきしてくる!」
オレアは元気に部屋を飛び出した。
デアリスの手には、己と不釣り合いなコウキュウヒンのビロードの箱が握られたまま――
『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
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