第1話 下町の少年
◯ルビアの街 街の教会 (1902年 4月)
|アレクシスの暮らすルビアの街にある教会。
|教会は、何処の国もそうであるように、宗教だけでなく教育と福祉の機能を持っている。
|病院、孤児院。そこにはアレクシスとはまた違った、生活がある。
アレクシスの暮らす街には、他の多くの街と同様に、教会がある。
教会、それは傷ついた者が魂の救いを求めるところ。
祈りを捧げる礼拝堂があり、神に身をささげた者たちが、日夜祈りを捧げる――しかし、この街の教会は、少し違っていた。
この街では七年前に大火事が起きた。それにより親を失った者、怪我を負いそれまで通りの仕事ができなくなったものも多かった。
孤児、困窮者の救済に向けて国も、篤志家も動いた。集められた金は教会へと渡った。
この街にとって教会は、祈りや祭りなどの祭祀の場であると同時に、病院や福祉機関を兼ねた、公的機関だった。
神父を筆頭として、シスターに、教会で働く少年たち。七年前は子どもだった者たちも成人する年齢となり、
教会を出て独り立ちするものもいれば、教会に残って子どもたちの教育にあたったり、新たに発生した困窮者の救済を生業とする者もいる。
アレクシスにとっては、定期的に祈りに行く場所――そして「依頼」が来る場所だが、ここを生活の場とする者も居るのだ。
教会には様々な人が訪れる。旅する聖職者に一晩の宿を提供することもあるし、外国の客人をもてなすこともある。
不義の子がひそかに預けられることもあれば、病にかかった母親が救いを求めて駆け込んでくることもある。
当然、暮らしに必要な物資をやりとりする商人も、教会には出入りしているし、孤児院を出て独り立ちした者たちが母校訪問のようにして訪れることもある。
誰に対しても開かれている場所。それが教会だ。
この街の教会は、特にその傾向が顕著だった。学校兼病院兼福祉機関兼役所なのだから当然だ。
もちろん、教会なのだから祈りの部屋もある。老若男女、貧富を問わず誰でも、祈りを捧げる者ならば使って良い部屋だ。
その部屋に、そっと近づく男がひとり。手にはビロードに金飾りの、小さな小箱が握られている。
顔は――フードに覆われていて、見えない。
「おいのり、ですか?」
通りがかった幼い少年が客に問う。
祈りの部屋の傍らには、孤児教育院がある。身寄りのない子どもなどの生活の面倒を見ながら、教育も行う施設だ。
少年の手には雑巾。どうやら、ここの掃除をはじめるところだったらしい。
「おいのりなら、どうぞ。オレ、掃除はあとにするから」
祈りは、邪魔してはいけない。
そう教わっていた少年は、その場を離れようとした。しかし。
「こちらへ」
男は走り去ろうとする少年に声をかけた。少年はいぶかしがりながらも、祈りの部屋の前まで戻り、男を見上げる。
口元まで覆うように、きつく結ばれたフード。太陽を背にした男の顔はやはり暗く、肌の色も目の色も、判別できない。
男は少年の肩に手を置き、低い声で言った。
「デアリスという青年を知っているか」
「あんちゃん?――知ってます!」
デアリス、それは少年が孤児院で慕っている兄貴分の名だった。
男はよし、とうなずくと、手を差し出した。
「これを、届けてくれ」
「えっ?」
男が渡したのは、豪華な小箱。雑巾を持っている手で触れていいか迷っていると、空いている手を捕まれる。
箱が、手のひらにのせられた。少年はあわてて雑巾をかなぐりすてて、両手でしっかりと箱を持つ。
子どもの両手におさまるくらいの箱。何が入っているかは――わからない。
「これを、デアリスという青年に。他の者には、報せないように。できるか?」
「は、はい……!」
男は頼んだぞ、とひとこと言うと、静かにその場を去った。
『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
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