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第35話 命を求める青い宝石


◯ヴァルミタール家 二階 アレクシスの自室 (1902年 4月)


 2人にも聞こえたのだろう、とっさに口をつぐむ。


『僕も挿入(い)れてもらってもいいかな?』


 軽い口調の中に、有無を言わさぬ圧がある。

 アレクシスはもちろん、と言って、サフィルを少年挿入(キャスト・インサート)する。艶やかな蒼の少年が現れ、微笑んだ。


「身体はもう大丈夫なの」


 探るように声をかける主人に、宝石少年(ジェムズ)は嬉しそうに応える。


「心配してくれていたのかい、ぼくの主人(ドミヌス)」


 とろけるような笑み。傷だらけでシャツ一枚で立ち尽くしていたことなど、忘れたかのようだ。それでも心配そうなアレクシスに、「あの日はやりすぎたんだ」とサフィルは軽い口調でつぶやいた。


「二人の言う通りさ、僕にはどうも、淫魔(サキュバス)のような性質があるらしい。生まれつきなのか、昔の女主人(ドミナ)の職業の影響なのかはわからないけど――」


 そう言うとふわり、と手を空にかざす、青い炎がうっすらと手にまとわりつくのが見えた。


「僕の星幽心核(メルト・クオーレ)を少し、嗅がせるとね、相手がその気(・・・)になってしまうんだよ」


 ふふっ、と笑うその表情は、まさに小悪魔。悪びれもせず、あの日は少し、やりすぎてしまったようだ。あの老人には悪いことをしたけど、楽しそうだったからまぁいいか、と続ける。

 それでも、アレクシスの表情は暗い。あの日サフィルをを傷つけたことを、アレクシス自身どう扱って良いのかわからないのだ。


「気にすることはないよ。ぼくの主人(ドミヌス)。君の仕事は僕らを《磨く》ことなのだから」


 でも――とアレクシスは顔を上げて反論する。主人(ドミヌス)は、宝石少年(ジェムズ)に善い経験を与えなければならないはずだ、と言いかけると、サフィルがそっと、アレクシスの唇に指を置いた。


「磨くことはね、傷つけることと同義だよ、ぼくの主人(ドミヌス)」


 そう言うと、アレクシスの唇に触れたまま、サフィルは自ら石の中に戻った(エジェクトした)。慌てて受け止めた手のひらの中に、小さな青い宝石が冷たく光っている。


(磨くことは、傷つけることと、同じ?)


 その言葉が、アレクシスの心に小さな棘のように刺さった。柔らかく、奥に潜り込むように。

 ディアマンテとアメティスは、何も言わなかった。それは、無言の肯定のように思えた。


 ――善い経験を、彼らに。


(それが僕の、『使命』なのだと言われたけれど)


 ――傷つけることで、光るなら。


(僕の関わりは、彼らを――)


 ――いつでも完璧に輝く、ディアマンテを。

 ――優しく微笑む、アメティスを。

 ――元気で快活な、年下の友人のようなジョーヌを。

 ――パパと言って懐いてくれる、小さなスマグラーダを。

 ――どこか寂しさを隠して笑う、サフィルを。


(傷つける?)


 手のひらの中の青は、ただの石のように固く冷たく光っている。

 触れた面だけが、かすかに温度を保っている。

 まるでアレクシスと命のぬくもりを、分け合うように。




『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』

原案:神田明子

作:西瓜すいか・差異等たかひ子

企画・制作:Hisshigumi Project


※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。



____________________


第35話までお読みいただき、ありがとうございました!


これにて、第一章・全35話完結です!


9月11日から毎日更新してきた第一章。

最後までお付き合いいただいた皆さま、本当にありがとうございます!


第一章は西瓜すいかをメインライターにお届けしてきましたが、

第二章からは差異等たかひ子がメインライターを担当します。


そして第二章では、新しいジェムズも登場予定!

また少し違った『ディスポーザブル・キャスト』の物語をお届けします。


まずは第一章、無事完走!

全35話、本当にありがとうございました。


面白かった、続きも読みたいと思っていただけましたら、★評価やお気に入り登録で応援していただけると嬉しいです!


第二章も、ぜひお楽しみに!

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