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第27話 食欲魔神の宝石少年


◯ヴァルミタール家 二階 アレクシスの自室 (1902年 4月 夜)


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アレクシスの自室、普段は片付いた机の上に、

たくさんのものが載っている。

スマグラーダのために、

アレクシスがかき集めた、お菓子たちだ。

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 クッキー、ナッツの揚げ菓子。カスタード味のケーキに、はちみつ入りのミルク。

 アレクシスの部屋にはところ狭しと甘いものが並べられ、はまるで、お嬢様のティーパーティーのようだ。

 お腹をすかせたスマグラーダのために、アレクシスが急遽集めた食べ物たち。メイド長のズッカに怪しまれながら家中からかき集めたのだ。


 パクパクパクパク


 スマグラーダは目を輝かせて、甘いお菓子をほおばっている。


 パクパクパクパク


 袋いっぱいの揚げ菓子が瞬く間にカラになる。スマグラーダは次のターゲットをクッキーにしたようだ。そして更いっぱいに並べたクッキーも、すぐに半分以上、スマグラーダのお腹のなかに吸い込まれてゆく。


「おいしーい!」


 ジャムを挟んだクッキーも、香辛料入りのクッキーも、本来であれば来客用だ。通常であれば紳士淑女が、ああ、これは美しい細工ですな、などと談笑しながら食べるもの。それがひとつ、ふたつ、みっつと、リズムよく口の中に放り込まれていく。


「あのさ、アメティス」

「はい、何でしょう」

「スマグラーダは、その、よほど飢えていたのだろうか。宝石箱のなかで」

「いえ、我々は基本的には、食べ物を必要としません。キャストインサートされ人の姿になった後であれば食事ができますが、そもそも宝石の姿では、口がありませんから」


 それもそうだ。宝石の姿で、食べることはできない。ということは、彼はきっと、飢えるということは無いのだ。

 なら、彼はどうしてこんなに、食べまくっているのだろう。アメティスとアレクシスが会話している間にも、甘味はどんどん減っていく。


 (あ。クッキーがなくなった……)


 揚げ菓子が終わればクッキー、クッキーが終わればケーキ。この調子では、部屋の中の全ての食べ物が食い尽くされるのも時間の問題だった。


 アメティスがもしかすると、とつぶやいた。


「少年挿入(キャスト・インサート)したせいかもしれません」

「少年挿入(キャスト・インサート)したせい…?」

「人の姿をとるには、星幽心核(メルト・クオーレ)が大量に必要です。しかし彼はこれまで、ほとんど人の姿になることはなかったのです。いざ、人の姿になってみたら、彼自身の星幽心核(メルト・クオーレ)だけでは力が足りず、こうして食物からエネルギーを補おうとしているのかもしれません。」

「ということは、彼がこの姿でいるかぎり」

「………お菓子を与え続けなければならないのかもしれません。」


 アレクシスは頭をかかえた。目の前で消えていったお菓子たちは、ちょっとしたティーパーティーが、3,4回ほどは開けるくらいの量だった。それが今、一時間もたたないうちち一人の幼児のお腹に消え去っていった。アレクシスの家は比較的豊かとはいえ、パーティを二十四時間、三百六十五日開催しつづけるような余裕はない。


「ふわぁー!美味しかった!パパ、もっと!」


 アレクシスの表情などおかまいなしに、明るい可愛らしい声が響く。お腹が空いて仕方がないという様子だ。


「えっと、すまない。お菓子はもう、無いんだ」

「えっ」


 エメラルドの瞳が悲しく曇る。まるでこの世の終わりのような表情だ。


「ちょっと、このスピードで食べるとは思っていなくて。うちにはもうお菓子が無い」

「ええーーーっ」


 頬をふくらませ、目の端に涙が溜まる。アメティスがフォローに入った。


「スマグラーダ。あまりご主人様(ドミヌレ)を困らせるものではありませんよ」

「せんせい」

「君は、まだお腹がすいていますか?」

「うん。すっごく。はじめてなんだ、こんなこと」


 ぐうう、と、再びスマグラーダのお腹が鳴る。あれだけ食べても満たされないというのは本当のようだ。


「君はこの身体に慣れていない。そのせいでお腹がすくのかもしれません。少し、戻りませんか?」


 アメティスがスマグラーダの背中を撫でながら、優しく諭す。


「ええ、いやだよ、パパともっと遊びたい!」


 ぎゅっと、アレクシスの足に抱きつく。すると、ノックの音がした。


「失礼いたします。若旦那様(ドミヌレ)」


 やってきたのはディアマンテだった。スマグラーダがアレクシスの背後にさっと隠れる。


「ディアマンテですよ、ご挨拶なさい」

「………。」


《先生》に促されても、スマグラーダは黙っている。相手によっては人見知りをするらしかった。その様子を見てディアマンテが微笑む。


「ディアマンテです。君と同じ宝石少年(ジェムズ)ですよ。宝石箱の中でお話したことがあるでしょう」


 スマグラーダははっとすると、アレクシスの陰にかくれたまま軽く礼をして「スマグラーダ。よろしく」とつぶやいた。

 ディアマンテはアメティスに向かって言う。


「この姿を見るのは久しぶりです。旦那様(ドミヌス)にご紹介したとき以来でしょうか。」

「そうか、旦那様(ドミヌス)に、挨拶だけはしたのでしたね」

「あのときはすぐに星幽心核(メルト・クオーレ)が尽きて、取り外し(エジェクト)せざるをえなかったのですが、今は姿を保っていられるのですね」


 それが――と、アメティスは事情を説明した。ずっとお腹がすいていること、おそらく星幽心核(メルト・クオーレ)の不足が原因であること――。そして、スマグラーダ自身はは外の世界で活動したがっていることも伝えた。それを聞いたディアマンテはこともなげにいった。


「そういうことであれば、人の姿にならずに、外の世界を見て見れば良いのでは?」


(人の姿にならずに?)


 アレクシスには無い発想だった。そんなことができるのか?と問うと、ディアマンテは続けた。


「アメティスが時折本の中に入っているのと同じです。そうですね、例えば、そちらの人形」


 ディアマンテは、祭りで買った人形に視線をすべらせる。


「この人形に入ってみることができるか、試してみませんか、スマグラーダ」

 スマグラーダはディアマンテの提案に、無言でうなずく。そして、アレクシスを見上げる。言葉は発していないが、「どうしたらいいの?」と問うているのが、アレクシスにも解った。アレクシスはひざまずき、目線を合わせて言った。


「スマグラーダ。一度君を取り外し(エジェクト)する」


 スマグラーダが強くうなずく。アレクシスを信じ切っている目だ。


「そして、その後、この人形に――侵入(インフィルト)する。できそうかな」


 もういちど、スマグラーダが強くうなずく。


「やってみる!パパ、ぼくを元の姿に戻して。」

「解った。」


 アレクシスはスマグラーダの両手を優しく握ると、告げた。


「取り外し(エジェクト)」


 すると一瞬、スマグラーダの身体が薄い緑色に光り、消えた。アレクシスの手の中には、小さな緑色の石。


「このあと、どうしたら良いんだ?」


挿入(インサート)の手順は知っているが、鋳造心臓(コア・ソケット)以外に入れる場合でも、主人が命じれば良いのだろうか?

 アメティスが答える。


「スマグラーダをそちらの人形に触れさせて、侵入(インフィルト)せよ、と心のなかで呼びかけてみてください」


 アレクシスは言われた通りに、緑の石を人形の胸元に押し当て、念じた。


「――侵入して(はいって)ごらん。」


 すると、石がすうっと押し込まれるような感覚があった。まるで雨水が地面に染み込むように、石が人形に沈んでゆく。そして、人形が薄く緑色に光り――


『パパ?』


 頭の中に、声が響いた。


「成功したようですね」


 ディアマンテが微笑む。


「スマグラーダ、手足を動かせますか?」


 ぐぐっ、と、手がわずかに動く。しかし、すぐに力を失ってしまう。


「こちらを見ることはできるか?」

『やってみる!』


 アレクシスが問いかけると、エメラルドの瞳が僅かに動いた。人形と目が合う。不思議な感覚だった。


「お腹はすいているかい?」

『ううん、ぜんぜん』


 アメティスとアレクシスは安堵した。お菓子で破産、というシナリオは回避できたようだ。ディアマンテが言った。


「星幽心核(メルト・クオーレ)のチカラをうまく使えば、コレくらいの人形であれば、動かす事ができるようになると思います。一日数時間程度、この人形に侵入(インフィルト)させて、外の世界を学ぶのはいかがでしょう?」

「ジブンもそれが良いと思います。少年挿入(キャスト・インサート)して人の姿になるのは、今の彼には負担が大きいようですから。」

『ぼく、がんばる!』


 頭の中に響く彼の声は明るい。今はまだ動かないが、この人形をスマグラーダが操れるようになれば、きっと外の世界を楽しむこともできるだろう。幸い、この人形は受肉した彼の姿にもよく似ている。彼にとってよい器になるだろう。

 きょろきょろと、唯一動かせる目だけを使って、周りを把握しようとする姿はまるで生まれたての赤子のようで、愛らしかった。


 すると、再びノックの音が響いた。やってきたのは執事、ヨハンだった。


「若旦那様、失礼いたします」


 執事はディアマンテとアメティスが居ることに気づくと、軽く会釈をした。


「賑やかになりましたね。お久しぶりです、アメティス」

「お久しぶりです、ヨハンさん」

「お茶会でもされたのですか?」


 机の上には空っぽの皿が多数残っていた。


「あ、いや、そういうわけではないんだけど……」

「ズッカが首をかしげていましたよ、坊っちゃんが甘いものなんて珍しい、って。三人でこれだけ召し上がったのですか?」


 ヨハンは不思議そうに皿と、3人を見比べる。


「まあまあ、その件はいいから、何か用事だったんだろう?」


 来客用のお菓子を食い尽くしたとバレたらズッカがどれだけ怒るか、アレクシスは容易に想像できたので、話題をそらすことにした。


「あぁ、失礼しました。実は、依頼が来たのです。隣町、ディターニアの商人から」


『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』

原案:神田明子

作:西瓜すいか・差異等たかひ子

企画・制作:Hisshigumi Project


※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。



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最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


『ディスポーザブル・キャスト』を面白いと思っていただけたら、ぜひ応援していただけると嬉しいです。


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ご感想も大歓迎です。

「このキャラクターが気になる!」など、一言でもぜひ聞かせてください。


毎日更新していきますので、これからも『ディスポーザブル・キャスト』をよろしくお願いいたします。

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