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第22話 ロマンチストは恋に恋する


◯ヴァルミタール家 一階 事務室 (1902年 4月)


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ヴァルミタール家の事務室。

手紙や契約書類、

帳簿などがある部屋の仕事に、

アレクシスが座っている。

ヨハンが手紙の仕訳をしながら、

アレクシスに仕事を教えている。

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 アレクシスが父から仕事を引き継いで少しの日が経った。ディアマンテは執事見習いのような顔をして家に住むようになった。メイド長のズッカも顔見知りのようで、またしばらくいるのかい?などと気安く話しかけている。

 どうやら、ヨハンの遠縁で、あちこちを旅しながら仕事をしている若者、と説明しているようで、チェリカも特に疑問を持たず、使用人仲間のように接している。


 アレクシスはといえば、宝石たちの主人となり浮かれたのも束の間、その後はヨハンからの厳しい指導が待っていた。

 家の金銭の流れの把握、帳簿付けの方法。

 貸借表の読み方に、親しい家の人間関係を頭に叩き込むこと――。


「良いですか、若旦那様。人との繋がりは何よりの財産。これまでヴァルミタール家が築いてきた縁を、若旦那様の代で途絶えさせるなどあってはなりません。」

 ヨハンが力説する。


「特に、アルディーニ家とのご縁は大切にしなければなりませんよ。お分かりですね?」


 ニコニコ顔だが目が笑っていない。アレクシスは心の中でため息をついた。


「今、心の中でため息をつきませんでしたか?」

「な、そんなわけないだろう。」

「わたくしには、坊っちゃまの心の声が聞こえたように思いますが?」


 はあ、と今度は口に出してため息をつく。幼い頃から自分のことを知っているこの執事は、なんでもお見通しなのだ。


「アルディーニ家。つまり。ミルフィオレ嬢、だろう。」

「ええ、若旦那様の許嫁でございます。」


 そうなのだ。ミルフィオレ・ヴェネ・アルディーニ嬢。船が街を行き交う、港町の貴族令嬢だ。街の商家に、貴族令嬢の許嫁。アレクシスとしては不釣り合いだと思うのだが、これはお互いにとって悪い話ではなかった。


 アルディーニ家は、簡単にいうと没落貴族だった。

 貿易業で昔栄えた家だが、各地に鉄道が通り、人もモノも、これまでにないスピードで移動するようになると、彼らの地位は下がっていった。残ったのは形ばかりの爵位だけ。暮らし向きでいえば、アレクシスの家の方が良いくらいだった。

 その家には父母に、娘が一人、息子が一人。そして、その娘というのが、ミルフィオレ嬢なのだ。


 ミルフィオレ嬢は、よく言えば賑やか、悪く言えばうるさい少女だ。年はアレクシスのひとつ下。貴族のご令嬢、という印象からはかなり遠く、元気な村娘といった方がしっくりくるような性格だ。

 アレクシスは、たびたびミルフィオレ嬢と会う機会があった。親同士が商売で知り合い、子どもたちの年齢が近いことがわかった。では許嫁にしておこう、という口約束がすぐに成立。たびたび一緒に遊ばされてきたのである。


(許嫁、ねぇ……。)


 アレクシスは三度目のため息をついた。ミルフィオレ嬢は悪い子ではない。それはわかっている。格の高い家名が手に入り港町とのコネクションも手に入る、それが商売上有利であることも、もちろん理解している。

 けれど十七才の少年である彼としては、恋のひとつやふたつしてから結婚したい、という想いも捨てきれないのだ。


(ま、恋人がいるわけでもないんだけどね……)


 心のなかで独りごちる。

 アレクシスの母は産後の肥立ちが悪く、アレクシスが幼い頃に亡くなってしまったのだが、父と母は恋愛結婚だったと聞いている。実際、父は今でも母のことを愛しているようだし、浮いた話も聞かない。どうせ夫婦になるのなら、利害だけでなくそういった感情――恋や愛――を持って結婚してみたいものだなあ、とアレクシスは考えていた。


「もう少しで復活祭です。一緒に見て回ったらいかがですか。」


 執事の声で、思考が途切れる。復活祭――神がこの世に復活し、春の女神がそれを祝ったという祭り。花と、繁栄の象徴である卵を飾る祭りだ。街中が春の花で彩られ、市場には卵料理や甘い菓子が並び、豪華な装飾を施した卵が縁起物として飾られる。


「確かに、彼女は喜びそうだね。キャーキャー言う姿が目に浮かぶ。」

「かわいらしいではございませんか。デエトにお誘いなさいませ。」

「デート、ねぇ……。」


 ふたりで祭りを巡る。花に、料理に、お菓子にいちいち騒ぐご令嬢のエスコート。彼女が食べたいというお菓子のために並び、広場でそれを分け合って食べる――。


(……案外、悪くないかもしんない)


 はじめは面倒だと思ったが、想像してみると悪くない。

 ミルフィオレ嬢の良いところは、うるさいが、陽性のうるささである点だ。花を見れば「綺麗ねーーー!」と叫び、お菓子を見れば「美味しそうねーー!」と叫ぶ。そして、お菓子を食べれば「美味しいわねー!!」と笑う。それに「やれやれ」と言いながら付き合うのは確かに、悪くない「デエト」になりそうだった。


「さ、御心が決まったのであれば、アルディーニ家にお手紙を書いてくださいませ。何でも良いから理由をつけて、度々連絡をとること。それが人脈構築の秘訣でございますから。」

「……結局そこにつながるのか」

「跡取り修行をさせるように、旦那さまより仰せつかっておりますから。」


 主人に忠実な執事は、容赦ない。

 アレクシスが怒涛の添削と書き直しを経て、アルディーニ家と複数の取引先への手紙を書き終わったのは、日が沈んだ頃だった。



『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』

原案:神田明子

作:西瓜すいか・差異等たかひ子

企画・制作:Hisshigumi Project


※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。



____________________


第22話までお読みいただき、ありがとうございます!


今日から10月。

9月11日に連載が始まった『ディスポーザブル・キャスト -夢を見せる宝石少年-』も、気づけば22話までやってきました。


9月から追いかけてくださっている皆さまも、最近この物語を見つけてくださった皆さまも、本当にありがとうございます。


第一章もいよいよ後半戦。

10月も宝石少年たちの物語を、一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。


10月も『ディスポーザブル・キャスト』をよろしくお願いいたします!


「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、★評価やお気に入り登録で応援していただけると、制作チーム一同とても励みになります。


次回、第23話もお楽しみに!

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