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第19話 行方不明の紫水晶


◯ヴァルミタール家 二階 アレクシスの自室 (1902年 3月 夜)


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アレクシスの自室。書き物机にベッド。

大きめの窓の横に、

ガラス扉のついた小さな鍵付き棚。

その扉はあいている。宝石箱が取り出され、

アレクシスの手のなかに。


――だが。

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 宝石箱にあるはずのアメジストが無い。


(―――ヤバい。)


 宝石箱のすみずみまで目をこらす。ビロード貼りの箱の中には、サファイア、エメラルド、そしてイエローサファイア。

 あの一番大きな紫色の石は、どこにもない。

 ランプをつけ、棚の中を照らす。無い、無い、ない!!

 アレクシスはドッドッドッと、心臓の音が大きく速くなるのを感じた。大切に受け継がれてきた宝石。それを、たった一日で失くしてしまうなんて――!


 泣きそうになりながら、棚の中のものをどけてゆく。幼い頃に好きだったおもちゃ。祭りで買ったガラスのお守り。父親にもらった、外国の硬貨。しかし、紫色の宝石は影も形もない。もういちど、宝石箱の中を見る。やはり、無い。棚の中に残るのは本だけ。絶望的な気持ちで一冊、また一冊と本をどけてゆく。棚のすみずみまで見えるようになった。

 だが、やはり、アメジストは無い。

 絶望的な表情で、最後の一冊に手をかける。すると、本が、淡く光った。


(――え?)


 月の光は届かぬ場所なのに、どうして。アレクシスが戸惑っていると、頭の中に声が聞こえた。


『アレクシス坊っちゃま(ドミヌレ・アレクシス)、大きくなられて!』

「うわっ!」


 思わずのけぞるくらいの《大声》だった。


(何だ、この声……?!)


『あぁ、申し訳ない。驚かせてしまいましたね。ジブン、声が大きいのです。これくらいでいかがでしょうか。アレクシス坊っちゃま(ドミヌレ・アレクシス)?』


 頭の中で響く声が、小さくなった。


(コレを『声』と表現してよいのかは、疑問が残るところだけれど――)


 アレクシスは戸惑ったが、とりあえず、この謎の《声》の主と会話を続けてみることにした。


「あなたは、だれなんです?」

『コレですよ』


 笑みを含んだ《声》とともに、手の中にある本が光る。


(本が――話す?)


 頭の中はクエスチョンマークだらけだが、とにかく、名を聞かなければならない。


「君は誰だ。名を名乗れ。」


 ふふっ、と小さな笑いが漏れ、《声》は歌うように言った。


『それは小さなお尋ねかと存じます。主(あるじ)たるもの姿なぞより本質を探るべきもの』

 アレクシスはハッとした。それは、光っている本の一節だった。老紳士が悪魔と契約する長い長い物語の、悪魔のセリフだった。

「悪魔か――?」


 アレクシスは、身をこわばらせ、あたりを警戒しながら、言った。

 無論、悪魔なぞ架空の存在であろうことは解ってはいる。だが、宝石少年(ジェムズ)の実在を知った今、人間の理解を超える不思議な力が他にもあるのかもしれない、という想いが勝った。


『…………。』


 長い沈黙。その後、一呼吸をおいて、《声》は名乗った。


『ジブンの名は、アメティスというのですよ。アレクシス坊っちゃま(ドミヌレ・アレクシス)。』


 言い終わるやいなや、本が淡紫色の光を増す。

 そして一瞬ののち、本から出た紫色の炎が、アレクシスの腕を包み込んだ。


「うわっ……!」


 慌てて本を手近な机に置く。炎はアレクシスの手のひらから離れ、やがて消えた。


「……ふう……びっくりした。」


 手を握り、開き。腕を曲げ、伸ばし。動きに問題が無いことを確認する。

 炎のように見えたので焦ったが、火傷はない。本の損傷がないか確かめようと、机の上を見ると……


 ――アメジストが、あった。


 大きな紫色の石が、本の上にころん、と載っている。


「え?」


 本日二度目の、思わず出た「え?」である。

 アメジストは何食わぬ顔をして、本の上でキラキラと輝いている。

 アレクシスはその色が、本から出ていた不思議な炎の色に酷似していることに気づいた。さらに、頭の中に響いた声を反芻する。


(声の主は、アメティスと名乗った……)


 アレクシスは宝石箱から鋳造心臓(コア・ソケット)を取り出すと、無言でアメジストをソケットに入れた。

 そして、話を聞かせろ!!という想いを込めて、叫んだ。


「少年挿入(キャスト・インサート)!」


『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』

原案:神田明子

作:西瓜すいか・差異等たかひ子

企画・制作:Hisshigumi Project


※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。



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