第17話 完全勝利
◯ルビアの街 街道(1902年 3月 夜)
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ディアマンテとアレクシスは店を出て、
街道を歩いている。
屋敷まで馬車なら十数分だが、
歩けば一時間程度の道のりだ。
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アレクシスとディアマンテは、街からしばらく歩き――、人通りが全く無くなったところを見計らって、《変装》を解いた。アレクシスはフロックコートを羽織り、ディアマンテは、再び元の姿――優美な執事姿に戻っている。
「凄いよ、魔法みたいだ!」
興奮して叫ぶアレクシスをディアマンテが諭す。
「さほど難しいことをしたわけではございません」
「僕は全然判らなかった。あのカード、どうしてあんなに強かったんだ?」
「アレは――あの店がイカサマを生業としていたから出来たことです。あのカードは――キングとクイーンのカードだけ、僅かに端が削られているのですよ」
「端が?」
「ええ。そうすると、カードを切る時、強いカードだけが僅かに――手の中で動くのです。それで、強いカードだけを狙って配ることができるのです」
「でも、それならどうして、相手は気づかなかったんだ?」
「ああいう店では、イカサマを嫌って、わたくしのようにカードを自ら配りたいという客も居るのです。それに備えて、多重に仕掛けが組まれているものです」
「多重の仕掛け、って?」
「胡桃ですよ」
「くるみ……?」
全く記憶になかった。確かに、酒のつまみに、ナッツが配られていたような気はするけれど、それに何の意味があるというのだろう。
「給仕が定期的にナッツの殻を掃除し、同時に補充していましたね。アレに法則がありました。客のカードが強いときには盆の中央にクルミを置き、弱いときには端に置く。どうやら盆の位置も関係していたようですが、その暗号までは、読み解けませんでした」
心底残念そうにディアマンテが言う。あの短時間でそんなことまで分かるわけないだろう、とアレクシスは思ったが、これが完璧を志向する彼にとっての《通常運転》なのだろう。突っ込んでも仕方がないので、そこは黙っておくことにする。
「くるみの位置で情報が伝わるなら、ディアマンテの札が強いのは、相手にすぐ伝わったんじゃなくて?」
「伝わらないように、ひと芝居打ちました。《交換拒否で二倍》の条件も満たす必要がありましたからね」
アレクシスはその時のことを思い返す。あのとき、札を交換させてくれ、と言って、アレクシスを泣きそうな顔で見つめたディアマンテ。その後、怒って机を叩いていた――。
「アレか!」
「アレです」
「あの瞬間、くるみを端に移動させた――。それで、相手は、弱い札だと誤解した」
ディアマンテは微笑み「人は、相手を弱者とみると、あなどるものですから。隙を作るのは簡単なのですよ」と付け加えた。
誤解が成立してしまえば、勝つのは難しくない。なんていったってあれだけキングばかりの手札だったのだ。
「じゃあじゃあ、次は?あの石取り!」
店主は余裕の顔で、勝負を仕掛けてきた。店主は勝ちを確信していた様子なのに、何故勝てたのか、興味があった。
「アレは、簡単な話ですよ。若旦那様は、数学はお得意ですか?」
実際のところ、たいしてお得意ではなかったが、とりあえず、「うん、まあ」と曖昧にうなずいておく。
「石の数で、先攻と後攻、どちらが勝つか決まるのです。詳しい説明は省きますが――今回は先攻が勝つと決まっている数でした」
「ちょっとまって、石の数を数えていたってこと?」
「千も二千もあるわけではないのですから。さほど難しいことではございませんよ」
あの暗い店内で、黒ビロードの上に山盛りにされた石を数えるのは、人間には難しそうだったが――宝石少年ならば、可能なのかもしれない。
「で、でも。ならどうして勝てたの」
店主は先攻だった。
ディアマンテはアレクシスの疑問に、簡単なことです、と言って
――ころん。
石をひとつ、手渡した。白く濁った、水晶のような丸い石。
「これは……?」
「わたくしの一部、と申し上げればよろしいでしょうか」
「ダイヤモンドってこと?」
手の中の石は、水晶より断然濁っている。
「原石には、いろいろなものがありますから。あそこにあった石に似せて作ってみました。若旦那様。先程、石の数によって、先攻と後攻、どちらが勝つか変わる、と申し上げましたね?」
「――これ、1つを紛れ込ませると」
「そう、わたくしたちの勝ち、というわけです」
ぱちん、とディアマンテが指を鳴らすと、水晶のような丸い石は魔法のように、虚空に消えた。
「いかさま、だ」
アレクシスはふふ、と笑った。その笑みに重ねるように、「そうですね」と、完璧主義の宝石の王は、歌うように笑った。
◯ルビアの街 街道の外れにある酒屋の裏倉庫(1902年 3月 夜)
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ディアマンテとアレクシスが去った後の賭場。
店の者も、一般客も、
落ち着きを取り戻している。店主も、
平時の顔を取り戻している。男が、
こっそりと店主にささやく。
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賭場荒らし、とでも表現したい兄弟が去ったあと、賭場は普段の落ち着きを取り戻していた。
貧乏学生――ディアマンテ――と、はじめに対戦した男が、店主に耳打ちする。
「ボス、なんで金貨を!金貨は断れた!」
ボス、と呼ばれた店主も小声で応じる。
「お前、オレを誰だと思ってる。オレは天才スリと呼ばれた男だぜ」
「――どういう意味だ?」
店主はにやり、と唇を歪めると、袖の裏に縫い付けられた隠しポケットから、コロン、と輝く粒を出した。
「こ、これは……!」
「あの若造、世慣れたつもりかもしれんが、まだまだだな、金貨を受け取るときにこれを手のひらに置いたままだったのよ。これは小金貨六枚なんてもんじゃない。あの勝負、結局オレたちの勝ち、ってわけさ」
「すげえぜ、さすがボスだ」
「これはダイヤモンドだ、3カラットはあるか――」
店主が指先で、宝石の王を弄ぶ。虹色のきらめきが男たちを魅了する。
――次の瞬間。
じ わ り 。
男の手のひらの上で、ダイヤモンドが朱く輝く。まるで、燃える石炭のように。
「え?」
熱さを感じたのは、一瞬だった。店主の手のひらの上から、ダイヤモンドはこつ然と消え失せていた。
盗みの隙を与えるのも、王の手のひらの上だった、とは気づかないまま、彼らは喪った輝きへの未練を抱いて、虚空を見つめるのだった。
『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
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