第13話 人に乞われて輝く者
◯ルビアの街 中央広場に至る道 (1902年 3月 夜)
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身ぐるみ剥がされ、
大きな木の上から降りられなくなっている男。
その男を見上げるアレクシス・ディアマンテ・ヨハン。
ヨハンはその男を助けるために、
ディアマンテを《使う》ことを提案する。
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(――そうか、彼なら)
考えるより先に、言葉が出ていた。
「ディアマンテ、頼む!」
「仰せのままに。若旦那様」
ディアマンテは優雅な仕草で軽く目礼をすると、軽い身のこなしで木の上に駆け上った。
まるで梯子を登るかのように軽々と、幹の上に足をかけて登ってゆく。ほどなくして、モアゴールドの居る枝までたどり着く。
「君は」
「ヴァルミタール家の者です。さあ、つかまってください」
「私は――重いぞ」
ディアマンテは「鍛えておりますので」と涼しい顔で、背に乗ることを躊躇しているモアゴールドの腕を引っ張り、自分の背中へと誘導する。「落ちないように、つかまっていてくださいませ」と声をかけると、登ったときと同様、軽々と木を下ってゆく。
「な、なんだあいつ!」
木の下で笑っていたゴロツキが、血相を変える。黒いドレスの女からも笑みが消え、ゴロツキの影に隠れてるようにして不安そうにしている。
ディアマンテはモアゴールドを地に下ろすと、ちょうど木から下りてきたアレクシスを守るように、木の幹の前に立った。
「若旦那様。いかがいたしましょう。ふたりを《こらしめる》件は」
ディアマンテの言葉を遮るように、モアゴールドが叫ぶ。
「金なら出す!!あいつらを――追い払ってくれ!!」
《こらしめる》ではなく《追い払う》になっているあたりが、小心者の先輩らしかった。
モアゴールドの言葉を受けて、アレクシスがディアマンテに命じる。
「追い払って。――ちょっとだけ、こらしめつつ」
「かしこまりました」
ディアマンテは主人の人の良さに苦笑しながら、攻撃を開始した。
まずはゴロツキの男。ディアマンテが向かっていくと、「なんだてめぇ!」と言いながら果敢に挑んでくる。
ディアマンテは向かってくる拳をよけもせず、手首をぐっと掴むと、男をなぎ倒した。
筋骨隆々としたゴロツキが、細く優美な印象のディアマンテに投げ飛ばされたことで、女はヒッ、と息を飲んだ。まさかゴロツキが倒されるとは思っていなかったのだろう。
男のほうも諦めずに立ち上がろうとするが、ディアマンテは男の足をぐっと足で踏みぬく。すると、男がぐうっ、と、悲鳴を上げる。
男の足には、血が滲んでいた。
「てめぇ、どこに刃物なんか隠して――」
「さあ、何処でしょう」
優美な笑みを貼り付けたまま、ディアマンテは答える。刃物など何処にも無いのに、男のふくらはぎには錐で刺したような傷ができていた。ディアマンテは男から離れると、黒ドレスの女のほうに歩みよる。
「そこの淑女、この方を介抱してあげてくださいますか?道端の石で、お怪我をされてしまったようです」
「あ、あんた……」
ディアマンテが男の傍を離れると、女は男にかけより、彼を助け起こす。
ゴロツキは悪態をついているが、彼がもう戦えない事は明白だった。
黒ドレスの女はゴロツキの男の肩を支え、ほうほうのていで、街のはずれへと消えていった。
ゴロツキたちが視界から消えた瞬間、周囲がわあっ、と歓声に包まれた。
「すごいね」「いやぁ、勇気がある!」
遠巻きに見ていた街の人々からの激励の言葉だった。アレクシスは戸惑い、言葉を返せなかったが、ヨハンが「ありがとうございます」「彼は武術の心得がありますので」等といって適当にさばいた。
残されたのは、モアゴールドと、アレクシス。そしてヨハンとディアマンテの4人だけ。
静かになった木の下で、口を開いたのはモアゴールドだった。
「本当に、助かった。ありがとう。アレクシス・ヴァルミタール」
深く頭を下げる。富豪の生まれなのに、人に頭を下げることができるのは彼の美点だ。
「君も、ありがとう。ええと――」
律儀に、ディアマンテにも礼をする。ディアマンテは、「ディアマンテと申します」と深々と礼をした。
「ありがとう、ヴァルミタール家のディアマンテ。さてと、対価だったな。さて――」
モアゴールドは上着の内ポケットを探ろうとして、上半身が裸であることに気づき、慌てて身体を隠した。
その様子を見て、ヨハンがすかさず営業をかける。
「モアゴールドさま、質素なものではありますが、馬車に服がございます」
「おお!それは素晴らしい」
「上下それぞれ、大銀貨一枚となっておりますが」
「それでいい、とりあえず、このままでは帰れんからな」
「かしこまりました!」
ヨハンはすぐに馬車に向かう。戻ってきた彼の手には、ブラウンのジャケットと、ズボン。それに白いシャツが一枚。
「こちら、シャツはいかがいたしましょう」
「それももらおう、中銀貨で良いか」
「かしこまりました」
(……商売上手だ……!)
アレクシスはただただ、感嘆していた。商家に生まれたとはいえ、ここまでぼった――もとい、需要を的確に捉えた営業活動を見るのははじめてだった。ヨハンが、もしよろしければ、と、着替え場所として馬車を提供する。
馬車から出てきたモアゴールドは、ブラウンの揃いに身をつつみ、裸の小男から、街の小紳士へと変身を完了していた。
「はは、いささか、長いな」
小柄な彼にとって大きすぎたのだろう。ジャケットとズボンは、くるくると袖と裾をまくられていた。格好良くはないが、裸よりマシだ。服を着て落ち着いたのか、モアゴールドはあらためて、アレクシスに握手を求めた。
「あらためて、ありがとう、ヴァルミタール。このたびの助けへの対価は大銀貨三枚で良いか」
大銀貨三枚。食事付きの高級宿にひと家族が泊まれるほどの額だった。
(――いいよね?)
値付けに問題が無いか、ヨハンに視線を送り確認する。
(――良いでしょう。)
ヨハンが目線で応じたのを確認したのち、返答する。
「問題ありません」
「うむ。屋敷についたら、この服の代金とともに送金させよう」
「ありがとうございます」
「いやあしかし、皆が見てみぬ振りをする中、君が通りがかってくれて助かった!」
モアゴールドは縮こまった身体をほぐすかのように、大きく伸びをしながら言った。
「いえ、知り合いが困っていたら、助けるのは当たり前ですから」
「幼い頃から、そういうところは変わらんな」
モアゴールドは、ははは、と笑う。そして続けて
「あのムッツリ君が、このような用心棒を連れて歩くような立派な紳士になるとは。驚きだ!」
と言って、豪快に笑った。
「「むっつり君?」」
ディアマンテと、ヨハンの声がかぶった。
『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
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第13話までお読みいただき、ありがとうございます!
シルバーウィークも『ディスポーザブル・キャスト -夢を見せる宝石少年-』をお楽しみいただけていますでしょうか?
第一章は全35話。物語はまだまだ続きます。
引き続き、宝石少年たちと彼らを取り巻く人々の物語を見届けていただけたら嬉しいです。
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次回、第14話もお楽しみに!




