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第12話 帰り道での事件


◯ルビアの街 中央広場に至る道 (1902年 3月 夜)


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仕事を終えたアレクシスとディアマンテは、

迎えの馬車と合流するため、

街の中央広場に向かって歩いてゆく。

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 帰りは中央広場でヨハンと待ち合わせだ。広場まで、ディアマンテとふたりで歩く。

 空はもうすっかり暗かったが、最近新しく建てられた電灯が、道を明るく照らしている。

 店の窓から漏れる明かりや、立ち並ぶ店の軒先にぶら下がったランプも、夜を明るく見せるのに一役かっていた。

 酒場から、大笑いしながら出てくる男たち。時間を見ながら、鉄道駅のほうに走ってゆく者。店先で商品を片付ける夫婦。

 広場の周りに植えられた大きな木の下では、恋人同士だろうか、若い男女が何かをささやきあっている。

 ごくごく平凡な、夜の街の風景――の中に。


「たすけてくれぇええええ!」


 哀れっぽい、男の声が聴こえる。

 アレクシスとディアマンテは、顔を見合わせる。


「聞こえたか?今の」

「はい」

「助けを求める声だっったような」


「たすけてくれぇえ~~~」


 間違いない。声が聴こえる。それも、頭の真上から。

 男の姿を先にとらえたのは、ディアマンテだった。


「若旦那様(ドミヌレ)、あちらを」

 視線の先――大きな木の上には、身ぐるみ剥がされた――端的に言えば、パンツ一丁の――小男がいた。


「ちょっとまって、あれ、助けなくちゃ!」


 アレクシスが駆け寄ろうとすると、ディアマンテが小首をかしげた。


「若旦那様(ドミヌレ)は、彼を助けることをお望みですか?」

「そりゃあ……。あの状態の人を見たら、ふつう助けようと思うっていうか」

「街の皆様は、そうでもないようですが」


 そう告げられ、あたりを見る。

 すると、――確かにディアマンテの言うとおりだった。

 木の下では、派手な黒ドレスの女が、男を見てケタケタと笑っている。隣にはゴロツキ風の男がおり、そいつもにやにや笑いながら小男を指さしている。

 周囲の人間はその様子を見て、気の毒そうにはするるものの、見て見なかったふりをしている。


「たすぇてぇええ」


 蚊の鳴くような声で、男が懇願している。

「やっぱり、助けないと。」

 アレクシスはそう言うと、真新しいフロックコートを脱ぎ、木を登りはじめた。

 ディアマンテが心配そうに若き主人を見つめている。

 木は太く、幹の出っ張りも少ない。取り付く場所を見つけられず難儀していると、ヨハンがやってきた。


「若旦那様。何をなさっておいでで」

 半ばあきれ顔で、木の幹にしがみつく跡取りを見ている。この坊っちゃんは運動神経がいいほうではないことを、この家に長年務めている執事はよく知っていた。

「何って、助けるんだよ、あの人」

 当のアレクシスはいたって真剣だ。器用ではないながらもなんとか足で幹をとらえ、ぐっと身体を上げる。

 距離が縮まったことで、パンツ一丁の小男と目が合う。


(――あれ?)


 アレクシスはその小男に見覚えがある気がした。


「もしかして――モアゴールド先輩?」

「おお、君は、ヴァルミタールの!」


 小男は枝にしがみつきながら、ぱっと顔を明るくした。


「若旦那様、お知り合いですか」


 木の下からヨハンの声が聴こえる。アレクシスは上を向いたまま答えた。


「うん、実科学校(スクラ・レアルカ)の先輩だ」


 クライナー・モアゴールド先輩。本来であれば高等教育学校(アカデミア)に進むような富豪の家の生まれだが、いささかサボりグセがあり、一旦、中流の子供が通う実科学校(スクラ・レアルカ)に入ったという経歴の持ち主だ。

 アレクシスの5つ上で、アレクシスが2年生になったころには高等教育学校(アカデミア)に転学してしまったので、付き合いは一年だけ。学校では最高学年が1年生の面倒を見る決まりで、同じグループだったから、顔見知りだったのだ。


「ほう、モアゴールド家の方ですか」


 ヨハンの目がきらりと輝いた。商売人の顔だ。


「そういうことであれば、話は別です。若旦那様、彼を助けたいのですね(・・・・・・・・・・)?」

「え?――うん」

「そして、モアゴールドさま、貴方も、助けを望んでいらっしゃる」

「そうだ、君はヴァルミタール家の使用人か。頼む。たすけてくれぇ!」


 ヨハンは少々お待ちください、と微笑むと、若き主人に向かって言った。


「若旦那様。《御客様》です。いかがいたしましょう」


(おきゃくさま?)


 ディアマンテはなるほど、という風に静かに口の端を上げて、ことの成り行きを見守っている。


「ヴァルミタール家の商品のコンセプトは?」


 この場にそぐわぬ、まるで学校の先生かのような口ぶりで、ヨハンが問いかける。


「日常に、少しの夢と彩りを」

「そう、そして御客様が欲する《夢》を、我々は実現することができる」


 そう言うと、ヨハンはモアゴールドに向かって呼びかけた。


「――モアゴールドさま。貴方は、この木から降りることと、あの悪人風の男女二人組から逃げることをお望みですね?」

「ああ、そうだ。可能なら、あのふたりを、こ、こらしめてやりたいくらいだ!」


 モアゴールドは顔を真赤にして言った。事情を聴くと、女にねだられて賭け事をし、大負けして身ぐるみ剥がされたのらしい。


 若旦那様、とヨハンが目配せする。


「ディアマンテを《使う》のです。彼は、《完璧な夢》を見せる宝石少年(ジェムズ)。貴方が行けといえば、必ず《夢》を叶えてくれますよ」


『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』

原案:神田明子

作:西瓜すいか・差異等たかひ子

企画・制作:Hisshigumi Project


※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。



____________________


第12話までお読みいただき、ありがとうございます!


今回もお読みいただき、ありがとうございます!


昨日、朗読劇『ディスポーザブル・キャスト -ヴァルミタールの宝石少年-』の情報を解禁しました!


今回の朗読劇の舞台は、現在連載中のWEB小説から約70年前。

小説では描いていない『ディスポーザブル・キャスト』や、ジェムズたちの物語を上演いたします。


2026年11月27日~29日、シアターシャインにて上演です。


WEB小説を読んでくださっている皆さまにも、また違った時代の『ディスポーザブル・キャスト』の世界を楽しんでいただけたら嬉しいです!


出演者・公演詳細は公式HP、公式Xにて公開中です。


小説も引き続き毎日更新中!

朗読劇とあわせて、ぜひお楽しみください。

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