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2-9話 夜の客人
劍国の夜は、静かだった。
神殿の滞在区画にある一室。
与えられた部屋は、留学生用としては十分すぎるほど広かった。
机に本棚。
寝台が二つ。
そして、小さな浴室まで備えられている。
「つかれたー。」
浴室から戻った黒髪の青年は、
濡れた髪を拭きながら部屋へ入った。
到着したばかりの荷物が、
まだ部屋の隅に積んであった。
窓辺へ近付くと、夜風が心地良い。
長い旅の疲れが、
少しだけ身体に残っていた。
ふと目をやる。
隣の寝台では、
弟がすでに眠っていた。
慣れない場所にもかかわらず、
その寝息は、すぅすぅと規則正しい。
毛布が少しだけ肩から落ちているのを見て、
青年は小さく微笑んだ。
起こさないように、そっと。
優しい手つきで、毛布を掛け直した。
それから。
ぽん、と。
一度だけ頭へ手を置く。
柔らかな髪が指先に触れた。
「……おやすみ。」
小さな声で。
青年は再び窓辺へ視線を向けた。
遠く。
丘の上に王宮の灯りが見える。
夜の中に浮かぶような光だった。
まだ起きている者がいるのだろう。
しばらくその灯りを眺める。
やがて窓を閉めると、
夜風が静かに途切れた。
部屋には弟の寝息だけが残る。
しばらく弟の寝顔を見つめた後、
青年はゆっくりと灯りを落とした。




