2-8話 ときめき
昼下がりの休憩室。
茶器を前に置かれたとたん、
Lunariaはつぶやいた。
「これ、いつものお茶じゃないのね。」
机の上には、淡く湯気を立てた紅茶。
でも、いつものものじゃない。
「あいにく、切らしてしまいまして。」
「……いただくわ。」
申し訳なさそうに言う侍女に、
Lunariaは茶器を手に取った。
こくりと口に運ぶ。
うん、おいしい。
おいしいけど……。
「……前のお茶は?」
「宵の国の方が、下さったものでして。」
「そうだったわ。」
言いながら、Lunariaはふと考えた。
お気に入りのお茶。
……また下さい、なんて言えないわよね。
なら。
「あちらから、
似たようなお茶を取り寄せてもらえるかしら。」
「わかりました。」
年嵩の侍女が頷く。
Lunariaはもう一口紅茶を飲んだ。
そして。
机の上に積まれた書簡へ視線を向けた。
「……はぁ。」
また、増えてる。
年嵩の侍女が苦笑した。
「侍従長からお預かりしました。」
「もう、言われなくてもわかるわ。」
Lunariaはため息をついた。
若い侍女がそっと釣書の山を整える。
「せめて、肖像画でもあれば良いんですけど……。」
「やめなさい。」
年嵩の侍女が呆れたように言う。
若い侍女は頬を膨らませた。
「名前と経歴だけなんて、つまらないです。」
Lunariaは思わず小さく笑った。
「思っていたのと、
全然違う人が来るのも困るじゃない。」
「それはそうですけど。」
若い侍女は納得していない顔をした。
「せめて雰囲気くらいは……。」
「あなたが縁談するわけじゃないでしょう。」
年嵩の侍女に窘められ、
若い侍女は小さく肩を竦めた。
「…………。」
お茶を飲みながら、
Lunariaの頭の中では、
何度も同じ言葉が繰り返されていた。
顔。
安心。
仕事ができる。
「……顔と安心以外には、何かないのかしら?」
「ございますっ!」
つぶやいた瞬間。
若い侍女の声が弾んだ。
「ときめき、でございます!!」
Lunariaは、瞬いた。
「と、ときめき……?」
「その方のことを考えると、ドキドキするとか。」
「胸が、ぎゅっと切なくなるとか。」
「そういう、ときめきです!」
「……ときめき。」
Lunariaは思わず、おうむ返した。
……ちょっと、わからないかもしれない。
顔よりも。
「たとえば――先ほどの神殿連絡局の方。」
「うん。」
「かっこよかったです。」
Lunariaは書簡へ目を落としたまま答える。
「仕事はできそうだったわね。」
「そうなんです!」
若い侍女は嬉しそうに頷いた。
「背が高くって。
男物の制服を着て。
……ときめきました。」
憧れるように言う侍女に、
Lunariaは首を傾げた。
「相手が女性でも?」
「麗しい方に、性別は関係ございません。
ときめきます。」
「……そういうものなのかしら。」
手元の書簡を開きながら、
Lunariaは小さく息をついた。




