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ヨルから生まれた物語【第二部連載中】  作者: 灯ノ森みつき
【第二部】第一章《剪定》

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2-6話 まだ見ぬ人

執務室へ入る頃には、

Lunariaの表情はいつも通りになっていた。


机の上には既に書類が積まれている。


席へ着くと同時に、

側近が報告を始めた。


「本日は、神殿からの書簡がございます。」


Lunariaは、机に置かれた書類に目を通した。


「今年度の神殿留学生受け入れについて?」

「はい。」


側近が頷く。


「黎明国、宵の国双方より神学生数名。

神殿留学生として、例年と同じく神殿管理区画への滞在を予定しております。」


――特に問題は見当たらない。


毎年のことだ。


神学生に、研究員。

神官候補達。


各国との交流も兼ねている。


「許可します。」


Lunariaは署名した。


「それに伴いまして、本日の午後。

王宮側との調整窓口となる神殿連絡局より、

新任責任者がご挨拶に参ります。」


「新任?」


「前任者が退官いたしましたので。」

「ああ……。」


Lunariaは、ふと視線を落とした。


戴冠直後に起きた、神殿での一件。

前任者は、その責任を負って辞任したのだった。


「わかったわ。他には?」


側近が、次の書簡を開く。


『新国王戴冠時の夏至祭祭祀について』


「――夏至祭。」


「国王戴冠の年には、"水守"の役を王が務めることになっております。」


「そういえば、兄様もやっていたわね。」


こちらの書類にも、認可印を押す。


「それから……。」

「まだあるの?」


思わず漏れた。


官僚は視線を逸らした。


「ございます。」


言って、Lunariaの前に釣書の山を築いた。


「本日の分でございます。」


Lunariaは閉口した。


「…………。」


昨日も見た。

その前も見た。

――もう見たくないのに。


Lunariaは何枚かを手に取り、

ため息をつきながら順番に目を通していく。


家柄。

年齢。

役職。

経歴。


それから、肖像画。


――顔。


昨日の侍女との会話を思い出した。


『お顔を見ずに、どうやって運命の相手を見極めるのですか!?』


……本当に、そうなのかしら。


手元の釣書には、このようなことが書いてあった。


『まだ見ぬ月より美しい陛下に、変わらぬ愛を捧げます』


――――まだ見ぬって、書いてあるのに?


「……ねえ。」


近くで書類を整理していた若い官僚が、

顔を上げた。


「はい。」


歳は、Lunariaとそう変わらない。


「あなた、これを見てどう思う?」


「……私、ですか?」


「ええ。」


手元から数枚を抜き出し、

差し出す。


若い官僚は戸惑いながら受け取った。


「…………。」


しばらく目を通したあと、

ちらりとLunariaを見る。


「正直に申し上げても、よろしいのでしょうか。」


Lunariaは頷いた。


「……少々、誇張しすぎかと。」


「やっぱり?」


思わず声が弾んだ。

側近が僅かに眉を上げる。


「会ったこともないのに、

運命を感じるものなの?」


「人によるかとは思いますが……

私には、分かりかねます。」


「そうよねっ!」


ようやく同じことを思う人がいた。


Lunariaは少しだけ安心して、

目の前の若い官僚を見る。


顔。

……普通。


安心。

……できる。


仕事。

……できる。


「陛下?」


官僚が、怪訝そうに瞬きをした。


「なんでもないわ、ありがとう。」


Lunariaは、視線を戻した。


今度は釣書に添えられた肖像画を見る。


整った顔立ちの男性だった。


経歴を見る限り、

政務にも携わっているらしい。


顔。

……綺麗。


仕事。

……できそう。


安心。


「…………。」


できない。


会ったこともないのだから、

当たり前なのだけれど。


Lunariaは肖像画を机へ戻した。


顔が良くても、

安心できない。


仕事ができても、

安心できない。


だったら――


「……安心できる方が、大事なのかしら。」


Lunariaはもう一度、

釣書の束へ目を落とした。


安心。

仕事。

顔。


どうやら、

この順番らしい。


……たぶん。


「やっぱり、肖像画はいらないわ。」


Lunariaは、そっと肖像画だけを机の端に追いやった。

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