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ヨルから生まれた物語【第二部連載中】  作者: 灯ノ森みつき
【第二部】第一章《剪定》

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2-2話 まだ来ない

「本日分、届けてまいりました。」


そう報告を終えた若い官僚の目には、先ほどよりもうず高くなっている釣書の山が映った。


「これは、しばらく大変そうですね。」

「ええ、残業です。」


劍国王家始まって以来、初めてとも言える出来事だった。


「先王の頃までは、神殿側が決めていた。」


古参の官僚が、

一枚の釣書を手に取りながらいう。


先王も、今の女王陛下も。


幼少期には、

神殿側が定めた婚約者がいたそうだ。


王家に生まれた者が、自ら伴侶を選ぶ――


ましてや各国から候補者を募り、

その中から選ぶような事など、

彼等の知る限り前例がなかった。


「なぜ、今はおられないのですか。」


若い官僚は、急いで書類の山の整理に加わる。


「神殿側の都合だそうだ。」

「はあ……。」


「だが、代わりに再三の催促が来る。」

「何と?」


「早く後継を、と。」

「……なるほど。」


神殿側の考えていることは、

こちらからはよくわからない。


だが、王宮側としてもいつまでも放っておく訳にはいかなかった。


「陛下は?」

「まだ、どなたのお名前も挙げられん。」


これだけ候補がいるのに……。


若い官僚は、手にした書類に目を向けた。


「もしかして、

どなたかを待っておられるのでは?」


ふと落ちた若い官僚の言葉に、

高官の動きがぴたりと止まった。


「……それなんだが。」


見ると、

高官の前には古い候補者名簿が開かれていた。


十年前に、神殿側が選定した候補者の記録。


『宵の国、王弟家――長男、Edric』


「――もしや、この方ですか?」


「いや、違う。

もちろんEdric殿下は申し分のないお方だ。

だが……来ないんだ。」


「来ないとは?」


「――三男、Elliott殿下だ。」


三男、Elliott殿下。


聞き覚えのある名前だった。


「……あの、西棟の臨時政務室のですか。」


高官は頷いた。


前回の劍国滞在中。

王宮の噂になっていた方だった。


Elliott殿下が、

女王陛下の体調を気遣っておられたとか。


陛下が、Elliott殿のおられる西棟ばかり見ていただとか。


深夜、陛下の部屋で男性の声が聞こえただとか……。


「あれは、ただの噂ではなかったのですか?」


よからぬ話も混じっていたため、

官僚達も半信半疑だった。


だが。


「陛下を見ている限り、我々の勘違いだとも言い切れん。」


古参の官僚は渋い顔をしていた。


「では、女王陛下から言っていただければ。」


「……陛下は、誰の名前もおっしゃらぬ。」


年嵩の官僚達は、唸り声をあげていた。


「名前を挙げて頂かねば、こちらからは動けないのだ。」


女王陛下への釣書は、

明日もきっと山のように届くだろう。


だが。


官僚達の待っている一通だけは、まだ来ない。

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