2-1話 好きになるには。
劍国女王Lunaria。
戴冠したばかりの若き女王の元へ、
各国から縁談が殺到するのは、
至極当然のことだった。
国内の有力諸侯。
各国の王侯貴族。
そして、神殿関係者――
連日届けられる釣書は、
減るどころか増える一方だった。
おかげで、毎日の政務は長引いた。
今日も気付けば、
窓の外は赤く染まり始めている。
「……増えてる。」
疲れ果てたLunariaは、
自室へ戻るなり、憂鬱な表情を浮かべた。
こんなところにまで。
机の上に、山と積まれた釣書の束。
「本日の候補者一覧だそうです。」
「はぁ……。」
説明する侍女に、
Lunariaは泣きそうな気持ちになった。
本日の分。
と言うことは、
明日もまだ同じ量は来るのだろう。
『絞れ』といっただけあって、
昼間よりは少ない。
だが……まだ十分多かった。
「……。」
Lunariaは無言で一番上の書類を手に取る。
名前に家系。
経歴、役職。
領地、外交実績、その他云々……。
以前より、ずっと読みやすく整理されていた。
「……ふーん。」
さっきよりは、マシかしら。
少なくとも、無駄な情報は削られていた。
『Lunaria陛下をお慕いしております』
とか。
『あなたは月のように美しい』
とか。
『運命を感じております』
ですって。
――私、あの人達に会ったことあったかしら?
書類をめくる手が止まる。
「みんな、本気なのかしら。」
一枚ずつ確認しながら、Lunariaはこぼす。
年嵩の侍女は、困ったように首を傾げていた。
「官僚の方々も、少々焦っておられるようでした。」
「そうなの?」
「陛下が、どなたのお名前も口にされないからと。」
「そんなこと言われても……。」
だって、どうやって選べばいいかわからない。
Lunariaの周りの男性といえば、
父か、兄か、侍従や官僚達ばかりだった。
「好きな人を選んでください」と言われても、
何を基準に好きになればいいのか、
見当もつかなかった。
今まで様子を見ていた若い侍女が、
おずおずと口を開く。
「あの、姫様……肖像画はどちらに?」
「ないわ。」
即答したLunariaに、
若い侍女は衝撃を受けたような顔をした。
「な、なぜですかっ!?」
「なんでって……。」
「お顔を見ずに、どうやって運命の相手を見極めるのですか!?」
「え……?」
「麗しい方々の素敵な肖像画を見るのが、
私達には楽しみですのに!」
二人のやりとりに、
年嵩の侍女が、
お茶を淹れながら苦笑した。
「麗しい……?」
眉をひそめるLunariaの様子に、
侍女は不満そうに頬を膨らませている。
「肖像画が麗しくたって、会った時に全然違ったら困るじゃない。」
「それは、そうですけどぉ……。」
納得したわけではなさそうだったが、
それ以上は口にしなかった。
「若い子達は、お顔立ちのお話ばかりですからねぇ。」
Lunariaに茶を差し出す年嵩の侍女は、
そう言いながらも、少しだけ楽しそうだった。
「顔で、選ぶものなの?」
「当然です。」
若い侍女はすかさず頷いた。
「――あなたも?」
今度は、年嵩の侍女へ尋ねる。
「そうですねぇ……。
安心できるお方でしょうか?」
「安心……。」
「姫様は??」
「…………。」
若い侍女の言葉に、
Lunariaはしばらく考え込んだ。
そして。
「仕事、できる人がいいわ。」
ぽつりと言ったLunariaに、
若い侍女は、みるからに肩を落とした。
「夢がないです。」
その顔は、とてもつまらなさそうだった。




