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ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
一部:第一章『継承』

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最後の晩餐会

「戴冠を前に、

皆様をお迎えできることを、

嬉しく思います。」


今宵が、

穏やかな時間となりますよう――


Lunariaの言葉と共に、

各国の賓客が杯を掲げた。


彼女の着席と共に、

楽師達が再び緩やかな音楽を奏で始める。


「席次は?」


傍へ控えていた官僚が、

静かに頭を下げた。


「みなさま、お揃いです。」


「そう。」


かろうじてそう言い切り、

Lunariaは酒宴の席へ目を配った。


黎明国。


宵の国。


西方連合諸国。


華陽国。


その他、どの国の賓席にも、

空席はなかった。


ずん、と。


頭の奥に鈍痛が走る。


いつもより、

ずっと視界が狭い。


正直、

誰が誰だか、

そこまで目を配る余裕はなかった。


それでも、

この場を見渡さなければならない。


「劍国の葡萄酒は、

以前より香りが柔らかくなりましたね。」


柔らかな声に、

Lunariaは視線を向ける。


黎明国の賓客だった。


白金の刺繍を纏った礼装が、

燭台の灯りを受けて淡く光っている。


「ありがとうございます。

近年、南方領の畑は実りに恵まれております。」


自然に言葉が出る。


微笑みも頷きも、

驚くほど滑らかだった。


まるで、

身体だけが勝手に王女を続けているように。


「それは素晴らしい。

今後の交易にも期待できますね。」


「ええ。

私もそう願っています。」


会話はどこまでも穏やかだった。


だからこそ、

余計に現実感が薄い。


楽の音が、

頭の奥へ重く沈んでいく。


灯りが滲む。


霞む視界の端で、

鮮やかな青の礼装がちらついた。


宵の国側では、

西方連合の一団との談笑が続いていた。


王弟子息が、

軽やかに場を回しているようだった。


華やかな空気。


だが。


Lunariaには、その笑い声が遠い。


いつ誰と話したのか、何度杯を掲げたのか……


もう――

よくわからなかった。


ただ言葉だけが、

途切れることなく口をついて出る。


「華陽国のお茶は…」


「来年度の西方連合での会合は…」


言葉が、流れていく。


微笑む。


頷く。


視線を返す。


その繰り返し。


何十回と。


頭が痛い。


視界が歪む。


それでも王女は、微笑み続ける――


そのうち、ふと。


Lunariaの視線が、

宵の国側へ向いた。


……一席。


空いている。


Lunariaは、

わずかに目を細めた。


誰の席だったのか。


そこまで考えようとして、

鈍い痛みが再び頭の奥を揺らす。


思考が、

上手く繋がらない。


その瞬間。


……ざわり。


また。


得体の知れない感覚が、

静かに背筋を撫でていった。


「――劍国王女殿下。」


呼び掛けられ、

Lunariaはゆっくりと顔を上げる。


「……ええ。」


自然に微笑む。


何事もないように。


酒宴は、

穏やかなまま続いていた。


やがて。


長く流れていた楽の音が、細く途切れていく。


それを合図にするように、

各国の賓客達がゆっくりと立ち上がり始めた。


晩餐会の終わりだった。

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