王女Lunaria
晩餐会場には、
既に各国の来賓が集まり始めていた。
燭台の灯りが、
硝子細工へ淡く反射している。
低く流れる楽の音。
控えめな笑い声。
交わされる、
外交用の柔らかな言葉。
前国王を失ったばかりの劍国で、
若い王女の、最後の晩餐が行われようとしていた。
各国は、
それぞれの距離感でこの国を観測していた。
黎明国側は、
相変わらず人の動きが多い。
対して宵の国側は静かだった。
必要以上に動かず、喋らない。
ただ、
視線だけが時折動く。
昼間の謁見で見せた王女の様子も、
既に幾つかの卓で話題になっている。
若かった。
静かだった。
痩せていた。
兄王の喪から、
まだ抜け切っていない。
様々な評価が、
小さな声で交わされていた。
劍国王女、Lunaria。
劍国初代王から続く血脈の、最後の一人。
神代の時代から続く王朝が、
今後どうなっていくのか。
数えきれない眼差しが、彼女に向けられていた。
今夜。
世界は、一人の王女を見ていた。
ざわめきが、少しずつ途切れていく。
その時――
楽の音が落とされ、
会場の空気が僅かに変わった。
誰もが自然と目線を上げた。
「――劍国王女殿下のご入場です」
典礼官の声と共に、扉が開かれた。
軽やかに。
けれども、しっかりとした足取りで。
銀色の淡い光を纏った王女が現れた。
こつ、と。
足音を、磨かれた床へ落としながら。
ゆっくりと。
中央の席に向かって、歩みを進める。
「…………」
若い。
静かだ。
痩せている。
けれども。
――――目が奪われた。
王女が、人々の間を進んでいく。
灰銀の衣が揺れるたび。
幾つもの視線が、そこへ集まっていった。
誰一人、目を逸らさなかった。




