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ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
第二章《波紋》

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あと、少し

朝靄が、

まだ王宮へ薄く残っていた。


いつもより早く開かれる朝の政務へ向け、

Lunariaは急ぎ足で回廊を進む。


後ろでは、

侍女達も慌ただしく続いていた。


「夜明け前に、

伝令が入ったそうです。」


隣を歩く年嵩の侍女が、

小さく声を落とす。


Lunariaは、

短く頷いた。


回廊には、

既に人の気配が多い。


書簡を抱えた官僚。


徹夜明けらしい神殿側随員。


足早に行き交う警備兵達。


王宮全体が、

どこか張り詰めていた。


「……………」


冷えた朝の空気を吸い込み、

Lunariaは開かれた政務室へ足を踏み入れた。


既に、

室内には複数の官僚達が集まっていた。


机の上には、

今までに届けられた、数えきれない資料。


そして――夜明け前に届けられた、

新たな書簡。


Lunariaは、

席へ着くなり口を開いた。


「報告を。」


空気が、

さらに張り詰める。


「昨夜、

郊外宿場街外れの小教会にて、

地下待機室を確認しました。」


政務室へ、

低い声が響く。


報告に来た監察吏が、

机上へ数枚の図面を広げた。


廃教会の見取り図と、

地下礼拝堂へ続く旧水路。


待機室の位置に、赤い丸が付けられている。


「待機室内には、

簡易寝台、

水瓶、

使用済みの灯りが残されておりました。」


「……人がいたのね。」


Lunariaが小さく呟く。


それを聞いた、側近の官僚も頷いた。


「最近まで、

潜伏していた可能性が高いと。」


さらに、

監察吏によって別の報告書が開かれる。


「待機室壁面には、

潜伏者によるものと思われる

規則的な傷が刻まれていました。」


「傷?」


「はい。」


「…………」


何を数えていたのか。


Lunariaは、

しばらく黙って報告書を見つめていた。


「潜伏していた人物は、既に移動済みです。」


監察吏は低く答える。


「昨日の日暮れ前に、

『ひどく汚れた男が宿場町側へ向かった』

との目撃情報があり、

現在、監察官が宿場側を再捜索中です。」


宿場町。

森沿いの街道。

黎明国側へ続く道――


机上の地図が、

朝の光に照らされていた。


Lunariaは、真っ直ぐに監察吏を見た。


「……もし、

それが失踪神官だとしたら。」


室内の空気が、

僅かに張り詰めた。


「行き先は、黎明国ね。」


誰も、

すぐには答えない。


だが、監察吏は頷いた。


黎明側へ入られれば――


こちらからの追跡は一気に難しくなる。


神殿での問題は、

そのまま外交問題へ変わるだろう。


その細い線の向こう側を、

Lunariaは静かに見つめていた。


「……黎明国境側に、更に人員を増やして。」


「王都警備の方からも、そちらに人員を回すように連絡を。」


「は。」


Lunariaの指示に、官僚達が動き出した。


その時だった。


「……………?」


ふと、

視線が止まる。


……もう一つある。


報告書の束へ紛れるように、

別の書簡が一つ混ざっていた。


『婚姻候補者一覧』


Lunariaは、

小さく眉を寄せる。


……何故、今これが混ざっているのか。


しばらくその書簡を見ていた。


けれど。


「続けて。」


静かな声で、

再び報告へ視線を戻す。


候補一覧だけが、

他の書簡に紛れたまま、

机端へ残されていた。

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