Elliottの噂
「まだ寝てるんですか。」
ばさり、と。
容赦なくカーテンが開かれる。
「やめて……
眩しい……」
寝台へ突っ伏したまま、
Elliottは片腕で顔を覆った。
朝の光が、
遠慮なく部屋へ差し込んでいる。
机の上には、
昨夜まとめたままの書簡が置いてあった。
脱ぎ捨てられた外套。
読みかけの古い記録。
完全に、
徹夜明けの光景だった。
「昨日も遅かったんですね。」
呆れたように、
侍従が机の上を見る。
「地下側、
また潜ってたんでしょう。」
「……だって繋がったんですよ。」
まだ半分、眠った声で答えた。
「旧経路。
王都東街側から、
黎明方面の街道に向けて抜けてます。」
侍従が、
小さく眉を寄せる。
Elliottは、ようやく身体を起こした。
机の書簡を引き寄せ、
ぱらぱらと中身を確認する。
「地下水路の追加報告もまとめてあります。」
ぱさり、と。
書簡を侍従へ放った。
「午後から王宮監察官が、
地上側で現場視察に向かうそうです。
今日中に、
女王陛下へ届けておいてください。」
侍従は、
慣れた様子で受け取る。
「承知しました。」
その後。
何故か、
微妙な沈黙が落ちた。
Elliottは、片目だけを開ける。
「……何ですかその顔。」
侍従は、
少し迷った。
それから一息だけ呼吸を止めて、
口を開いた。
「昨夜、
晩餐会場側で少々噂になっておりまして。」
嫌な予感がした。
Elliottは、
無言で続きを促す。
侍従は、
咳払いをする。
「女王陛下が、
何度も貴方様の席をご覧になっていた、と。」
「………………は?」
静かな部屋へ、
間の抜けた声が落ちた。
侍従は、
かなり気まずそうだった。
「西棟側の噂もありましたので、
警備兵達が少々……」
Elliottは、
しばらく無言だった。
それから。
片手で顔を覆う。
「いや、
ちょっと待ってください……」
低い声だった。
「……どんな噂になってるんですか。」
侍従は、
少しだけ迷った。
けれど。
きちんと答える。
「警備兵側では、
女王陛下の自室へ、
誰かが通っているのではないかと。」
Elliottの動きが止まる。
侍従は、
淡々と続けた。
「侍女側の話では、
夜になると女王陛下が部屋を抜け出されているらしい、とか。」
「………………………」
「昨夜も、
宵の国側の空席を、
何度もご覧になっていたようですので……」
静かな沈黙。
Elliottは、
しばらく固まっていた。
それから。
「それって、まさか。」
自分の中で、
嫌な繋がり方をしたらしかった。
侍従が、
静かに視線を逸らす。
「……そういうことかと。」
「―――最悪だ。」
心底嫌そうに呟く。
「いや。
俺、必要以上に近づいてないですよね?」
真顔だった。
「むしろ、
距離取ってますよね??」
侍従が、
静かに目を逸らす。
「話したこともないですよ???」
完全に正論だった。
Elliottは、
再び顔を覆う。
「なんで、そうなるんですか……」
静かな部屋へ、
深いため息が落ちた。




