夜が見つめる
「…………」
Lunariaは、
静かに“彼”を見つめていた。
「綺麗な横顔ね。」
夜をそのまま溶かし込んだような、
長い黒髪。
雪みたいに白い肌。
通った鼻梁。
鋭さを帯びた眉。
そして。
暗がりの中でも光を宿す、
金色の瞳。
人の形をしているのに――人ではない。
兄は、夜と呼んでいた。
王宮の誰も、
彼をきちんと見てはいない。
ただ、その気配に怯えている。
“彼”が近くにいる夜は、
周囲の空気が少し変わる。
人が息を潜める。
声が小さくなる。
無意識に、
近づけなくなる――
周囲がそうなることを、
Lunaria自身もわかっていた。
閉ざされた夜そのものみたいな圧が、
この王宮を満たしていることを。
「Yule。」
名を呼び、窓辺へ近づく。
Yuleの長い黒髪が、
闇の中へ溶け込んでいた。
その隣へ腰掛けると、
Lunariaはそっと“彼”へ身体を預けた。
冷たい。
けれど、安心できた。
Yuleは動かない。
拒みもしない。
ただ、静かにそこに在る――
金色の瞳はまだ、
じっと窓の外に向けられている。
遠く、
西の方に向かって。
「あ…。」
夜の王宮の中で、
揺れる灯りが移動していた。
昨日の中庭の方だった。
……あの人、
今帰ってきたのかしら。
雨の庭で、
猫達に囲まれていた青年。
その後ろに、
王宮の噂にされている黒い幽霊。
思い出すたび、
少し可笑しかった。
「……あなたも猫が好きなの?」
なんとなく、Yuleに問いかけてみた。
けれど、“彼”は答えない。
「……ちょっと意外。」
小さく、そう零す。
Lunariaは、ふと不思議に思った。
そういえば――
あの青年は、Yuleの側にいても、
平気そうな顔をしていた……。
「…………」
“彼”は、
今日も静かに、
西棟を見つめている。
「――ねぇ。」
Lunariaは、
小さく唇を尖らせた。
「ちょっとくらい、
こっち見てくれてもいいじゃない。」
小さく零れたその声は、
どこか子供みたいだった。




