広がる噂
晩餐会が終わる頃には、
夜もかなり更けていた。
客人達を見送り終えた会場では、
使用人達が静かに片付けを始めている。
重たい食器が重なる音。
椅子を戻す音。
遠くで、
楽師達が楽器を片付けていた。
華やかな空気だけが消え、
広い会場には、
どこか現実的な静けさが戻っている。
「見ましたか?」
銀器を運んでいた若い侍従が、
小声で呟いた。
向かい側で、
席を整えていた侍従長が顔を上げる。
声を潜めたまま、彼は続けた。
「女王陛下。
何度も、あの空席をご覧になっていました。」
がちゃん、と。
少し離れた場所で、
食器が触れ合う音が響く。
侍従長は、
すぐには答えなかった。
「……西棟の噂ですか。」
ぼそりと、
低い声が落ちる。
若い侍従が、小さく頷いた。
「最近では侍女達からも耳にします。」
「軽々しく言い広めるものではありません。」
穏やかな声だった。
けれど、完全には否定されなかった。
誰もいなくなった宵の国側の晩餐卓。
最後まで空席だった場所を、
若い侍従がちらりと見る。
「でも、本当に何もないなら……
陛下が、あんな風に気にされるでしょうか。」
椅子を戻していた侍従長の手が、
一瞬止まった。
「…………」
そして、視線を落として。
「周囲も、
そのうち動き始めるかもしれませんね。」
そっと、
椅子を戻した。




