↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
第二章《波紋》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/78

底が見えない

「――まるで蟻の巣だな。」


神殿地下の水路へ灯りをかざし、

王宮監察官は低く呟いた。


神殿地下から伸びる水路は、

中央部を離れるにつれ、

人の手が加えられた石積みから、

次第に天然の洞窟へと姿を変えていく。


剥き出しの岩肌に、滴る地下水。


足元はぬかるみ、

滑らないように歩くのがやっとだった。


長い年月をかけて削られた細い流れ。


劍国中央神殿、祭殿中央部から東――


移動距離から考えれば、

ここは王都東街の地下だろう。


……いや。


街を流れる地下水路より、

さらに深い場所かもしれない。


「王都の地下に、このような場所が……」


部下が、うめくように言った。


現在の地図には載っていない場所だった。


人の手で塞がれ、

それが崩壊したような跡も見える。


かつては、

誰かが利用していたのだろう。


「これ……無事に帰れますかね。」


「わからん。」


不安げな部下に、

監察官は苦笑した。


外の時間もわからない。


どの道を通ってきたのかすら、

もう怪しくなっていた。


だが、

後続の部下が地図を描きながら進んでいる。


帰れなくなることはないはずだ。


改めて灯りを掲げる。


少し降りた水路の脇に、

人が通れそうな空間があった。


……調べるべきか。


思った、その時だった。


「――っ」


横穴から吹き込んだ風が、

手元の火を吹き消した。


「あ。」


辺りは、一瞬で闇に包まれる。


「監察官。」


「ああ、いる。」


まず互いの無事を確かめる。


部下は火打ち石を取り出したが、

湿気のせいで思うように火がつかない。


「……風が通っているのか。」


ということは、

どこかへ抜けている。


監察官は闇の奥へ目を凝らした。


その時。


遠くから、

小さな灯りが近づいてくる。


「補給か。」


そう思った。


だが、様子がおかしい。


灯りは、

我々が来た道ではなく、

更に奥から近づいてくる。


慎重に辺りを照らしながら、

黒い外套の人物が歩いてきた。


誰だ。


監察官も部下も、

思わず身構える。


やがて灯りが互いの顔を照らした。


「……あ。」


間の抜けた声が響いた。


「――Elliott殿。」


監察官は肩の力を抜いた。


宵の国の政務官だった。


「なぜ、ここに。」


突然問われ、

Elliottは珍しく言葉に詰まった。


「あー……えっと……」


少し視線を泳がせて、

困ったように口を開いた。


「……気になったもので。」


「……。」


監察官は額へ手を当てた。


それでは説明になっていない。


しかし、

問い質している時間もなかった。


「監察官!」


今度こそ、

後方から灯りが近づいてくる。


補給に来た部下だった。


「女王陛下より、

追加のご指令です。」


「ああ。」


監察官は書状を受け取り、

素早く目を通した。


「……なるほど。」


書状を畳み、

水路脇の洞窟の奥へ視線を向ける。


「こちらも調査対象に加える。」


Elliottも、

その暗い通路の奥を見つめていた。


「女王陛下からの追加指令ですか。」


問われ、王宮監察官は頷いた。


「旧黎明王政時代の連絡経路について、

調査を優先するように、とのことです。」


思わずため息をつきそうだった。


Elliottはしばらく、

黙り込んでいた。


だが、そのうち。


灯りを持ち直し、

ひょい、と水路の脇へ降りていった。


「では、今日中に調べちゃいましょう。」


「――Elliott殿!?」


監察官が思わず呼び止める。


Elliottは振り返り、

補給に来た部下に向かって手を振った。


「すみませんが、

晩餐会は欠席するとお伝えください。」


そう言い残すと、

何事もなかったかのように、

暗い洞窟の奥へ歩いていった。


「……本当に、政務官なのか。」


「そのはずなんですが…」  


思わず、部下と顔を見合わせた。

そして苦笑する。


一番底知れないのは、

実はあの人かも知れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。