休憩室の噂
休憩室では、
昼前の茶の準備が進められていた。
湯気の立つ茶器。
焼き菓子の皿。
手際よく、
侍女達が次々と並べていく。
そんな中、
若い侍女がぽつりと呟いた。
「……今朝の姫様、
ちょっと変だったんです。」
向かいで茶葉を量っていた年嵩の侍女は、
黙って耳を傾けていた。
若い侍女は、
そっと周囲を見回す。
他の侍女達が離れているのを確認してから、
さらに声を潜めた。
「だって……」
昨夜のことを思い出す。
下がるよう言われたあと。
姫様は確かに部屋にいたのに。
翌朝、
外套の裾は雨に濡れていた。
靴にも、
泥が跳ねていた。
髪だって。
よく見れば、
湿っていた気がする。
考えすぎかもしれない。
けれど……
胸の奥が、
妙にざわざわする。
「……昨日、眠られる前に、
姫様は西棟の方を眺めておられました。」
ぽつりと零した声に。
年嵩の侍女は、
やはり何も言わない。
ただ、静かに茶器へ湯を注いでいる。
若い侍女は、
無意識に唇を噛んだ。
脳裏へ浮かぶのは。
雨の夜と、西棟の黒い幽霊。
それに……
最近、警備兵達の間で囁かれている話。
夜になると、
姫様の私室前に、
黒い影が立っているらしい。
「……変な噂だって、あるみたいなんです。」
思わず、
声が小さくなる。
どこか上の空で、
窓の外ばかり見ていた姫の横顔。
あれを思い出すと、
ただの噂とも言い切れない気がした。
……まさか。
そう思った途端、頬が熱くなった。
「……大丈夫ですよ。」
俯く若い侍女に、
年嵩の侍女は小さく息を吐いた。
「最近の陛下は、
少しだけ落ち着いておられるでしょう。」
「……はい。」
「ちゃんと眠れておられるなら、
それが一番です。」
穏やかな声だった。
けれど。
その横顔は、
どこか少しだけ、
Lunariaの変化を見守っているようにも見えた。




