雨上がり
夜が明けて。
雨上がりの陽光が、
執務室へ差し込んでいた。
「本日のご予定は。」
いつもと同じように、
側近が予定を読み上げている。
Lunariaは、
政務机へ頬杖をついたまま、
薄く目を伏せていた。
「午前は港湾側報告。
その後、神殿側追加調査についての確認会議となっております。」
「……ん。」
返事が、
少し遅い。
長い睫毛が、
伏せられたまま動かない。
やがて。
小さく、
欠伸が漏れる。
側近は、一瞬だけ言葉を止めた。
「……陛下、お疲れでは。」
「大丈夫。」
被せるように返ってきた声は、
少しだけ掠れている。
だが、明らかに寝不足だった。
「……続けて。」
Lunariaが、
ようやく身体を起こす。
側近は、
小さく咳払いをした。
「地下祭壇側の追加報告も届いております。
戴冠儀式時、内部へ同行していた宵の国側随員からの補足証言も一致したとのことです。」
宵の国。
その言葉に、
Lunariaの指先がほんの少し止まった。
雨の庭。
猫達。
黒い気配。
ぼんやりと、昨夜の光景が脳裏を掠めた。
けれど、何も言わない。
代わりに。
「……失踪中の世話役神官の足取りだけど。」
静かな声で告げる。
「黎明旧王統時代の連絡経路なら、
おそらくその先は、
黎明側神殿方面へ繋がっているのでしょう。」
側近は小さく眉を寄せた。
Lunariaは、
開いた書簡へ視線を落とす。
「昨夜、
黎明側はあの話題だけ、
妙に触れたがらなかったわ。」
室内には、
紙を捲る音だけが響く。
「あちらは、
おそらくある程度の
予測がついているのでしょう。」
「そして、
それをこちらへ知られるのを避けている。」
側近の表情が、僅かに引き締まった。
「……黎明神殿内部の協力者を、
疑われますか。」
「ええ。」
Lunariaは、
迷いなく頷いた。
「失踪した世話役神官が、
単独で動けるとは思えない。」
淡々とした声だった。
けれど、その視線は鋭く冷えている。
「地下水路を抜けたあと、
誰と接触する予定だったのか。
王宮監察官へ関連する追加報告を、
まとめて持ってくるように指示して。」
「承知いたしました。」
Lunariaは書簡を閉じ、
視線を落とした。
「……今夜は、
宵の国との晩餐だったわね。」
「はい。
西棟側へも既に連絡済みです。」
「ありがとう。」
言って、
側に置かれた茶器を手に取る。
「――来られるかしら。」
そっとつぶやいた言葉は、
誰にも届かないほど小さかった。




