警備兵達の噂
夕刻前。
西側回廊の詰所では、
警備兵達が交代前の確認を行っていた。
開け放たれた窓から、
乾いた風が入り込んでいる。
「……で?」
一人の警備兵が、
身を乗り出した。
「侍女達、
何て言ってました?」
先程の警備兵は、
難しい顔のまま腕を組む。
「…………」
「何ですその顔。」
返事がない。
若い兵士が、
さらに怪訝そうに眉を寄せた。
「まさか、
本当に誰か――」
「違う、いや……分からん。」
歯切れが悪い。
周囲の兵士達も、
ちらちらと視線を向け始める。
やがて。
先程の警備兵が、
低く呟いた。
「……“落ち着かれていた”そうだ。」
一瞬。
詰所の空気が止まった。
「…………は?」
若い兵士が、間の抜けた声を出した。
「今日は、少し落ち着いておられたと」
「昨夜、誰かと話してたんでしょう?」
「らしい。」
「で、今日は落ち着いてる。」
沈黙。
誰かが、
ごくりと唾を飲み込む。
やがて。
若い兵士が、
恐る恐る口を開いた。
「……いや、
でもそれ、むしろ良くないですか?」
「いいわけないだろう!」
年嵩の兵士が、
即座に切り返した。
「国王陛下だぞ。」
空気が、
ぴたりと止まる。
若い兵士が、
小さく肩を竦めた。
「いや、だからその……」
言い淀む。
けれど、誰も完全には否定出来なかった。
ここ最近。
陛下の私室周辺は妙に空気が重たかった。
夜の回廊へ立つと無意識に足が鈍る。
侍女達も、
以前ほど長居をしなくなった。
警備兵達ですら、
あの辺りへ立つと、
妙な圧を感じることがある。
誰もその理由を上手く説明出来ない。
最近の王宮には、確かに“何か”がいた。
だが、もしもそれが人であったなら――
その時だった。
回廊側から、
乾いた咳払いが響く。
兵士達が、
一斉に振り返る。
そこには。
書簡を抱えた、
宵の国随員の侍従が立っていた。
「…………」
気まずい沈黙。
侍従は、
兵士達を見渡した。
それから、ほんの少しだけ口元を緩める。
「勤務中ですよ。」
静かな声だった。
兵士達は、
慌てて姿勢を正した。
侍従は、
それ以上何も言わず、
そのまま回廊を歩き去っていった。




