侍女達の噂
「昨日、ですか?」
休憩室から出てきた若い侍女が、
きょとんと目を丸くした。
回廊脇の窓から、
午後の光が細く差し込んでいる。
呼び止めた警備兵は、
どこか気まずそうだった。
「今朝方、
陛下のご様子で
気になることはなかったか。」
若い侍女は、
少し考える。
「気になること、ですか?」
「いや……
私室前の人影について、
報告があったので。」
警備兵が、
声を落とした。
「一応、
確認をと思ってな。」
若い侍女が、
ぱちりと瞬きをする。
「人影……」
警備兵は、
小さく咳払いをした。
「昨夜、巡回していた者によると……
陛下が、誰かと話していたそうだと。」
「え。」
若い侍女が、
思わず目を丸くする。
けれど。
すぐに口を閉ざした。
女王の私的なことについて、
軽々しく話すつもりはない。
警備兵も、
それは分かっていた。
だから。
それ以上は踏み込まない。
短い沈黙。
回廊の向こうでは、
別の侍女達が静かに行き交っている。
やがて。
若い侍女が、
曖昧に首を傾げた。
「うーん……
でも、今日は少し
落ち着かれてた気はします。」
警備兵の表情が、
固まる。
若い侍女が、
不思議そうに瞬きをした。
「それが何か?」
「いやっ、その……失礼する。」
警備兵は、
妙にぎこちない動きで踵を返した。
若い侍女は、
去っていく背中を見送りながら、
小さく首を傾げる。
「……?」
なんだか様子がおかしかった。
姫様に何かあったんだろうか。
……そういえば。
兄君が亡くなられてから、
頑なに拒まれていた机の掃除を許可されたな。
それに、
昨日はきちんとベッドで
休まれていないようだった。
言われてみると、
最近、少し穏やかになられたような。
私達が下がったあと、
誰かと話されていた……?
それに、あの警備兵の慌てぶり。
……。
「……え。」
思い至った時には、若い侍女の顔は真っ赤になっていた。




