次を。
劍国王宮の政務室には、
午後からも絶えず人の出入りが続いていた。
机へ積まれていく書類。
各地から届く報告。
神殿側との調整。
港湾区画の再確認――
若い女王は、
ほとんど休むことなく
それらへ目を通している。
「こちらは監察局側へ回してください。」
「はい」
「北側街道の件は、明日の朝の議題で。」
返答にいっさいの迷いがない。
決断が早い。
少し前まで、
何度も手を止めていた案件ですら、
今は淀みなく処理されていく。
政務室の端で、
年嵩の官僚が静かに口を開いた。
「……変わられましたな。」
隣にいた若い官僚が、
そっと視線を上げた。
その間にも。
女王は次々と書類に判をついていく。
迷いのない視線。
言葉を切る間。
――ふとした瞬間。
亡き兄王殿下と、同じ空気を纏うことがある。
「……先王陛下に、似てこられましたね。」
若い官僚の呟きに、
年嵩の官僚は返事をしなかった。
黙って、Lunariaを見る。
書類へ向かう細い背中。
休むことなく動く指先。
少し前までの女王陛下は、
こんな風には動かなかった。
もっと、
感情が顔へ出ていた。
困ったように笑い、迷えば立ち止まり。
兄王の後ろを、
必死に追いかけていた少女だった。
それを知っているからこそ。
今の姿が少し怖かった。
まるで。
先王が消えた場所へ、
そのまま立ってしまったみたいに――
若い官僚が、声を落とした。
「ですが……
無理をされているようにも見えます。」
「あの方は、
昔から一人で抱え込まれる。」
年嵩の官僚が、低く答えた。
「先王陛下がおられた頃は、
Lunaria様が止める側だったのですが……」
若い官僚が、
小さく視線を下ろした。
その先には。
山のように積まれた書類と、
それを一人で処理し続ける若い女王の姿。
誰より若い王が、
誰よりも休もうとしていない。
「…………」
Lunariaを長く見てきた官僚の胸に
小さな不安が、落ちた。
誰かが隣へ立っていなければ……
この方は、
倒れるまで歩いてしまうのではないか。
「次を。」
若い女王の声が、
再び政務室へ響く。
官僚達は、
次の書類を差し出した。




