ヨルに寄る者
黎明側使節団の滞在延長が決まってから、
すでに六日が経過していた。
王都東の高台へ用意された離宮には、
今も黎明側の人間達が留まっている。
西側の空は、
夕闇へ沈み始めていた。
室内は、重たい空気で満たされていた。
机へ広げられた書類を前に、
誰も必要以上に口を開かなかった。
やがて。
年嵩の随員が、
低く息を吐く。
「……高官殿のご様子は。」
控えていた侍従が、
静かに目を伏せた。
「面会を絶っておられます。」
短い返答だった。
部屋の空気が、
さらに沈む。
「……無理もありません。
本来の付き添い役は、
あの方の身内でしたから」
高官自身の署名。
それが、
今回の変更手続きへ使われていた。
「遺体の確認も、
まだされておられません。」
「……あれは、
見ない方がいいだろう。」
疲れた声だった。
ひどい損傷だった。
顔全体の凹凸がなくなるほど、
焼け焦げていた。
水で流された上、
時間も経っていて腐敗も激しい。
死因は焼損ではなく、
先に投与された薬物だと報告されている。
「……女王は、
自ら確認すると言ったそうだ。」
その言葉に、
何人かが顔を上げる。
「なんと……」
「さすがに、
側近に止められてはいたが……
止められなければ、
していただろう。」
「…………」
灯りへ寄った羽虫の影が、
書類の上をちらちらと横切っていた。
「……地下水路側の古い搬入口について、
黎明神殿側から報告が入っています」
別の随員が、
静かに口を開く。
その場に、わずかな緊張が走った。
「旧王政時代の伝達経路と、
一致したそうです。」
年嵩の随員が、
ゆっくり視線を上げる。
「まだ残っていたのか。
一部は封鎖されたと、
記録されていたはずだが……」
そこで、
言葉が途切れる。
「使われた形跡があったそうです。」
「やはり、旧王統擁護派……」
誰かが、
低く呟く。
返事はない。
けれど。
否定する者もいなかった。
「失踪した神官は、
その経路を辿った可能性があります。
単独で接触したのか、
あるいは……」
その先を、
誰も口にしない。
長い沈黙。
やがて。
年嵩の随員が、
低く言った。
「……なんとしても、
神殿側より先に接触しろ。」
誰も、
口を挟まない。
「もちろん、
劍国より先に。」
静かな声だった。
けれど。
その場にいた誰もが、
その意味を理解していた。
黎明国王族筋の死。
旧王統を擁護する、
神殿内部の派閥。
劍国戴冠式への、
儀式介入の疑惑。
これ以上、
外交問題を広げるわけにはいかない。
重苦しい空気の中。
年嵩の随員が、
部屋の隅へ控えていた甥に視線を向ける。
「……高官殿に、
後で見舞いの品でも届けておいてくれるか。」
「わかりました。」
その場に似つかわしくなく。
黒髪の青年は、柔らかく微笑んだ。




