ヨルに近づく
会談終了後。
神殿側へ用意された控室には、
重たい沈黙が落ちていた。
誰も、すぐには口を開けなかった。
遠くで鳴る鐘の音だけが、室内に響いている。
若い神官が、
ようやく小さく息を吐いた。
「あれが、
劍国の王ですか。」
誰に向けたわけでもない呟きだった。
「思っていたより、ずっと……」
言葉が途切れる。
怖かったのか。
畏れだったのか。
自分でも、うまく整理できていない。
年嵩の神官が、
静かに目を閉じた。
「劍国の王は、目を逸らさない。」
「毒物反応、
腐敗、
損傷確認……
あの年頃の娘が、
あそこまで淡々と…
その後、丁重に弔えと。」
ぽつり、と。
誰かが呟いた。
それが余計に、
異様だった。
冷酷ではない。
だからこそ、
人ではないものへ近づいているようで。
年嵩の神官が、震える声で言った。
「みたか、あの女王の背後を。」
「………」
燭台の火が、
小さく揺れる。
「あれが、
ヨルを繋ぐ王か。」
誰かの、掠れた声だった。
「歴代王の影にも、
ああして在りつづけている。」
若い神官が、
ゆっくり視線を落とす。
「まるで……
あの御方を、
その身に留めているようでした。」
言って、小さく息を呑んだ。
――逆だと思っていた。
王が、
夜を繋ぎ止めているのだと。
けれど。
今日、
あの場で感じたものは。
あれは……。
夜に、繋がれている。
「…………」
神官達は、すぐには動けなかった。
遠く、再び鐘が鳴る。
低く。
深く――




