夜に近づく
薄い膜の向こうで、
鐘の音が鳴っている。
遠い。
けれど、どこまでも響いてくる音だった。
白い帳が、
風もないのに揺れている。
冷たい。
指先が。
それとも、
頬だっただろうか。
Lunariaは、
ゆっくり目を開けた。
月明かり。
滲むような銀色が、
室内へ落ちている。
窓が開いている。
いつからだろうか。
そう思った瞬間。
月明かりの隙間を縫うように、
影が動いた。
静かな気配。
夜が、
こちらへ近づいてくる。
「……こんばんは。」
声は、
驚くほど自然に落ちた。
長い影。
揺れる、衣のようなもの。
黒い髪が、床へ溶けるように広がっている。
Lunariaはふわりと微笑んだ。
「今日ね、いつもより早く終わったのよ。」
まるで、
世間話をするかのように。
Lunariaはほんの少しだけ目を細めた。
「西棟にいる政務官の方が、
書類を、
かなり引き受けてくださっているみたい。」
月の光が、
白く指先を照らしている。
「あなた、
西棟にも行っていたの?」
影は答えない。
Lunariaは、
小さく息を吐いた。
「……侍女達が、話してたの。」
音もなく。
触れるYuleの指先。
冷たい。
けれど、
嫌ではない。
背筋を、冷たいものが撫でていく。
怖いはずなのに。
Lunariaはどこか、安心していた。
――金色の瞳が、こちらを見ている。




