宵の国政務官Elliott
「……少ない。」
Lunariaは、
積まれた書類の山を見て、小さく呟いた。
午後の政務室。
窓の外では、
柔らかな陽光が石畳を照らしている。
側近が、
不思議そうに顔を上げた。
「何がでしょう。」
「今日の分。いつもなら、まだたくさん残ってるはずだわ。」
机の上へ置かれている書類は、
いつもより明らかに薄い。
本来なら、
まだまだ山積みになっている時間だった。
「ああ。」
側近が小さく頷く。
「西棟側の臨時政務室で、
外へ回せるものの大半を引き受けてくださっているようです」
「西棟……」
Lunariaは、
小さく瞬きをした。
宵の国の、臨時政務室。
「随分助かっていますよ。
書類整理もかなり早いそうで。」
「…………」
Lunariaは、
静かに手元の書類へ視線を落とした。
『市場税徴収報告書』
――確認・宵の国政務官Elliott。
『西街街道補修計画書』
――書類整理・宵の国政務官Elliott。
『北区画警備配置変更案』
――照合・宵の国政務官Elliott。
『継承儀及び戴冠式期間中 神殿出入り記録』
――記録整理・宵の国政務官Elliott。
全ての書類に、同じ名前が記載されている。
「……宵の国の王弟子息三男殿のお名前は、Elliott様だったかしら。」
「はい。」
「これ、全部……?」
Lunariaは目を見張った。
土木、財務、警備、神殿……
ぱっと見た限りでも守備範囲が広すぎる。
ふと、
晩餐会での姿が脳裏を過る。
この間、書簡を届けてくれたあの…?
「……有能な方なのね。」
側近が穏やかに頷いた。
「ええ。王弟家の三兄弟は、皆様とても有能だそうで……全員が国の要職についておられます。」
「王弟家の方々が、皆ご公務に?」
「はい。長男殿が外交官。次男殿は軍上層部の騎士だとか。」
「ああ…」
Lunariaの脳裏に、晩餐会での華やかな王弟家長男の姿がよぎった。
春風のような空気を纏い、軽やかにその場を回していた――
あれほど自然に人を惹きつける方なら、
外交官としてもやはり有能なのだろう。
「今回、劍国にいらしている三男のElliott殿下も、お若いながらに宵の国では政務官を務めておられます。」
「へぇ……」
Lunariaは、目の前に積み上げられた書類の山へ目を向けた。
王弟家長男殿下の後ろで、
静かに控えておられた、あの金の髪の――
「……なるほどね。」
Lunariaは、頷いた。




