月明かりの幽霊
ふわり。
夜風が、
薄布を揺らした。
開いたままのテラスの扉から、
冷たい空気が静かに流れ込んでくる。
部屋の灯りは、
もう落としていた。
月明かりだけが、
白く床へ落ちている。
Lunariaは、
窓辺へもたれたまま、
静かに目を閉じていた。
遠く。
夜警の鐘が響く。
王宮の音は、
昼よりずっと少ない。
静かな夜だった。
少し前までは、その静けさが怖かった。
この暗い場所にたった一人。
孤独を突きつけられているみたいで……。
けれど。
今はもう、
この静けさが嫌ではなかった。
「……Yule?」
ふと、
視界の端、
光の届かない場所に
影が佇んでいた。
最初から、
そこにいたように。
音もなく。
夜だけが、
静かに濃くなる。
Lunariaは、
ゆっくりと目を開いた。
「来てたのね。」
静かな声。
返事はない。
けれど。
部屋の奥の影が、
微かに揺れた気がした。
「今日は、
少し涼しいわ。」
独り言のように、
Lunariaは呟く。
夜風が、白いカーテンを揺らした。
「みんな、あなたのことを
幽霊だと思ってるみたい。」
くすり、と。
Lunariaは小さく笑った。
「失礼よね。」
影は何も答えない。
だが不思議と、沈黙が心地よかった。
LunariaはYuleに近づいた。
月明かりに照らされた夜は、
もはや人の姿を崩さなかった。




