Elliott
月明かりに王城が照らされる頃。
西棟臨時政務室には、
まだ灯りが残っていた。
とっくに、就業時間は過ぎている。
積み上げられた書簡に、
開いたままの記録帳。
すっかり冷めた茶器の隣で、
青年は、書類へ筆を走らせていた。
王宮監察局への提出記録――
すでに提出済みの宵の国随員の滞在名簿へ、
神殿への出入りの記録を書き加えていく。
それとは別に、王宮側から受け取ってきた外部処理可能な政務書類。
紙をめくる音だけが、
静かな室内へ落ちていく。
「Elliott様。」
青年は少しだけ手を止め、視線をあげた。
「まだやってたんですか。」
「……戻ってきたんですか。」
入ってきたのは、
侍従だった。
外套を脱ぎながら、
机の上を見て眉を寄せる。
「『祭祀期間中の神殿出入りに関する記録』。
……王宮監察局への提出書類ですか。」
「ええ、新たに作る必要があったので。」
「……あなたは、王宮監察官の補佐ではなく
調査対象では?」
「こちらの方が早いかと。」
侍従は、
呆れたように息を吐いた。
「昼間は神殿側へ調査協力に行かれたかと思ったら、なぜか泥に塗れて帰って来るし……。」
「……いやぁ……神殿の地下水路で、少し足を滑らせまして。」
「調査されてる側が、
何で地下水路に潜るんですか。」
言い訳できず、青年は首の後ろに手をやった。
なおも侍従は続ける。
「市場税の確認、
街道補修……北区画警備配置??」
「こちらでも処理できるものは、
全て受け取ってきました。」
書類へ視線を落としたまま答える。
「高官殿も、全部抱えろとは言ってません。」
侍従の言葉に、Elliottは小さく笑った。
「仕事は、夜の方が捗るんです。」
「あなた毎回それですよね。」
侍従は深いため息をついた。
Elliottは、
机の端へ置かれた書類をぱらぱらとめくった。
「放っておくと、
あの人ちゃんと寝なさそうなので。」
さらり、と。
そう言うと、侍従がじっと青年を見る。
「あなたもです。」
「…………」
Elliottは聞こえないふりで
書類へ印を入れていく。
窓の外には深い夜。
侍従は静かに、
消えかけた灯りに油を継ぎ足していた。




