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ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
第二章《波紋》

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王宮の日常

午後の政務室には、

絶えず紙の音が落ちていた。


積み上げられた書簡と、

各国から届いた返書。


市場税の報告。


街道補修の申請。


冬支度に向けた備蓄確認に、

帰還使節団の調整。


戴冠式後、

止まっていた政務が、

一気に押し寄せてきている。


窓の外では、

柔らかな陽光が石畳を照らしていた。


「南区画の水路補修については、

優先許可を。」


「はい。」


「北門の警備は、

夜間のみ増員を継続。」


「承知いたしました。」


淡々と、報告と裁可が続いていく。

Lunariaは、一枚ずつ丁寧に目を通していた。


忙しさは、まだ続いていた。


けれど、王宮がようやく“日常”へ戻り始めていることを感じていた。


その中に、最後に残った書簡――


Lunariaは、ほんの一瞬だけ手を止めた。


『神殿封鎖区域について』


失踪した神官と、顔を焼かれた遺体――


「……本人確認は、

未だ断定できておりません。」


側近の声が落ちた。


「……もし。

遺体が本来予定されていた付き添い人本人でなかった場合。」


Lunariaが、

ゆっくりと口を開いた。


室内の空気が張る。


「――その場合。」


年配の官僚が、慎重に言葉を選ぶ。


「黎明側協力者による潜伏、

あるいは国外逃亡の可能性が浮上します。」


「……ええ。被害者の再確認を。

失踪した神官の捜索と並行して、

劍国内で最近発生した行方不明者と身元不明遺体。

本来の付き添い人と背格好の近い人物の目撃情報も集めてください。

旅籠、港、街道検問、

神殿出入り商人まで範囲を広げて。」


淀みなく言葉が落ちる。


「承知いたしました。」


「あと……」


Lunariaは、

書簡へ視線を落とした。


「神殿側名簿、

滞在記録、

搬入記録の照合も継続を。

変更申請が通った時点から、

関係者を全員調べるようにと、

至急、王宮監察官に指示を。」


「はい。」


高官がLunariaの言葉を書き留める。


何かが、噛み合わない――


その時。


こんこん、と。


控えめなノックが響いた。


「失礼いたします。」


入ってきたのは、

宵の国側、臨時政務室の男性だった。


年若いながらも、

落ち着いた物腰。


淡い金の髪を後ろで一つに束ね、

隙のない姿勢をしていた。


Lunariaに向かって一礼する。


「宵の国側より、

滞在延長に伴う追加人員配置表をお持ちしました。」


「ああ、ありがとうございます。」


側近が書類を受け取る。


男性は、

必要以上に前へ出ることなく、言葉を続けた。


「現在、

西棟臨時政務室側でも、

可能な範囲で書類整理を進めております。」


柔らかな声。


張り詰めた政務室の空気の中で、

どこか温度を和らげるような空気があった。


……この人。


Lunariaは、

ふと記憶を辿る。


確か、晩餐会で――


華やかな王弟子息長男の、

後ろにいた方だ。


「代表の王弟付き長官より、

外部へ回せる政務につきましては、

可能な限りこちらへ回してほしいとのことです。」


男性は続けた。


「陛下のご負担を、

少しでも軽減できればと。」


「…………」


Lunariaは、

ほんの少しだけ目を瞬いた。


「ご協力、感謝致します。」


男性は、

小さく目を伏せる。


「お力になれることは、何なりと。」


そのまま、

静かに一礼する。


扉が閉まり。


政務室には、

再び紙をめくる音だけが戻ってきた。


「次は、

北区画の警備配置ですが――」


側近の声が、

淡々と響く。


Lunariaは、

そっと書簡へ視線を落とした。


午後の陽光が、

白い紙の上へ落ちている。


確認、署名、裁可の印――

まだまだ、この作業は続きそうだった。

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