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ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
第二章《波紋》

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お菓子

西日が、長く床へ落ちている。


「……姫様、最近おかしいんです。」


Lunariaの自室の片隅で、

若い侍女はひそひそと囁いた。


「ご即位されてまもなくです。お疲れなんですよ。」


年嵩侍女は、

書簡を整えながら静かに返す。


けれど。


その視線は、ちらりと部屋の奥へ向いていた。


窓際にいるLunariaは、

椅子へ腰掛けたまま、ぼうっと外を見ている。


まだ政務服のままだった。


「でも……」


若い侍女は、

なおも声を潜めて続けた。


「前みたいに、“たすけてー、もうだめー”って仰らないんです。」


「声を抑えなさい。」


「だって本当ですもん。前は、めんどくさくなったらすぐ……」


「聞こえてるわよ。」


静かな声が不意に飛んだ。


「ひぃっ!」


若い侍女の肩が、

びくりと跳ねる。


年嵩侍女が、

思わず吹き出した。


「姫様……」


「……何よ。」


Lunariaは、

窓の外を見たまま答える。


その声に、若い侍女は少しだけほっとしたようだった。


西日が、ゆっくりと部屋を染めていく。


穏やかな静けさ。


ぽつり、と。


そこへ、力の抜けた声が落ちた。


「あー……たべたーい。」


若い侍女が、

ぱちりと目を瞬いた。


「……何をです?」


「お菓子。」


「姫様、もうすぐ晩餐の……」


「たべたい。」


間。


年嵩侍女が、

困ったように笑った。


若い侍女の顔が、

ぱっと明るくなる。


「い、今すぐ持ってきますっ!」


ぱたぱたと、

嬉しそうに部屋を飛び出していく。


その背を見送りながら、

年嵩侍女は小さく息を吐いた。


「お優しいですね。」


「何が?」


「いいえ、なんでもありません。」


ふふ、っと年嵩の侍女は目を伏せた。


窓の外では、

夕焼けが少しずつ群青へ溶け始めている。


しばらくして。


若い侍女が、

小皿を抱えて戻ってきた。


「姫様、お待たせしまし――」


そこで、

言葉が止まる。


しぃ……っと年嵩の侍女が唇に指を当てていた。


若い侍女も声を潜め、そっと扉を閉めた。


窓際で。


Lunariaは、

椅子へ座ったまま、

静かに眠っていた。


西日の名残が、

淡く頬を照らしている。


「……お疲れなんですよ。」


年嵩侍女は、

Lunariaを起こさないよう、

そっと肩へ布を掛けた。


部屋の中には、

夕暮れだけが静かに沈んでいた。

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